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いたずらなポルターガイスト

hassey-ikka8

更新日:2024年5月17日

The Puckish Poltergeist C.J.サレルノ   Christopher James Salerno  (1968- )


-Introduction-

「恐ろしさとコミカルさという対照的なものを同時に持ち合わせ、無茶苦茶に動き回るポルターガイスト。

”いたずらなポルターガイスト”は、そのいたずらを題材とした標題音楽である。

作曲者は、急速な拍子の変更や二重三重に重なり合うリズムパターン、コントラストを効かせた楽曲構造を駆使している。これによって、気味の悪い城の住人たち (ポルターガイスト) がさまざまな家具や台所用品を宙に浮かせて走り回り、またちょっとしたいたずらのつもりで少し変な叩く音を出したりするさまを、鮮烈に思い描かせる。」

- スコア所載・プログラム・ノートより

 

■楽曲概説

クリストファー・サレルノはラドフォード大学でマーク・キャンプハウス( Mark Camphouse )に師事した、アメリカの作曲家である。吹奏楽や管楽器アンサンブル (室内楽)に多くの作品を書いているが、1991年に作曲されたこの「いたずらなポルターガイスト」はサレルノの代表作と云って良いだろう。

吹奏楽のオリジナル曲としては珍しいオカルト/ホラーを題材とした音楽で、標題からして端的にインパクトがある。演奏時間5分程度の短い曲だが、楽曲の内容自体も大変ユニークなものであり、終始変拍子とダイナミクスの突然の変化を駆使して「人外」の予想もつかない現象、異様な情景を巧みに描写している。

「いたずら」のコミカルさとポルターガイストの邪悪さや恐怖といったものを同時に、そして対照的に表現した傑作である。


■ポルターガイスト

✔ポルターガイスト (poltergeist) とは

ある特定の「人物」の周りで生じる特異現象で、通常は短い時間の間に顕著な現象が起きる。

現象としては、「物品が宙を舞う」「激しい物音がする」「電灯の点滅や電話の着信などの機械的・電気的変化が起きる」が代表的で、時には「幽霊が目撃される」「寒気が感じられる」といったことも加わる。「ポルターガイスト」のステレオタイプのイメージは左上画像の如きものと思われる。海外を含め「ポルターガイスト」を検索ワードにウェブサーチをしてみると、具体的に画像化されたイメージとしては、ほぼこのような「目撃される幽霊」によって多くが占められているのである。


尚、怪奇的特異現象としてはホーンティング (haunting)もあるが、これはある特定の「場所」において生じる特異現象。「幽霊が憑依した家」などという形で現われ,散発的に長い時間に渡って現象が起きる。

現象としては「幽霊の姿や火の玉が見える」「何者かの存在感がある」「ノック音や足音が聞こえる」「ドアや窓が開閉する」「温度の急激な変化がある」といったもので、前述の通り現象が「場所」に憑いているという点でポルターガイストとは異なるものである。


✔ポルターガイストの原因

前述の通りポルターガイストの周辺には鍵となる人物が見られ、その人物が外出していたり、眠っていたりすると現象は起きない。ポルターガイストを発生させる人物の典型的な特徴としては「ほとんどが未成年」「6~7割が女子」「大部分は家庭環境に問題(両親の離婚,再婚,養子にされるなど)を抱える」との指摘がある。

その多くは、親から精神的に疎外され親への敵意を持っているため、その人物にとってポルターガイストは注目を引く手段であり、怒りと敵意の現われであるようだとも言われる。(従って現象が起こると、ポルターガイストを発生させた人物は一時的にしろ気分がよくなるらしい。)

現象は多くの場合その人物が無意識のうちに行われるが,それが起きることに罪の意識もあり,起きたことの責任を回避しようとする傾向も見られるという。

 

  【出典】明治大学 石川幹人教授「超心理学講座」 http://www.isc.meiji.ac.jp/~metapsi/psi/7-4.htm

 

✔映画「ポルターガイスト」

「ポルターガイスト」という言葉から広く連想されるものとして、スティーヴン・スピルバーグがプロデュースした1982年の映画 「ポルターガイスト」 は押さえておくべきものであろう。

公開の時期に鑑みれば、作曲者サレルノもこの映画を視ていた可能性は高いし、この映画のイメージが多少なりとも「いたずらなポルターガイスト」に影響を与えているのかもしれない。何より続編までも制作された映画であるから、広汎に「ポルターガイストといえば…」というとこの映画を思い浮かべる人々が多いはずなのである。

 

尚、この映画において「ポルターガイストを出現させる特定の人物」は、主人公一家の次女であった…。



■楽曲解説

いきなり激烈な音楽が、シンコペーションのfff で始まる!


家中の家具が浮き上がり、ダイナミックに飛び回り荒れ狂う場面をイメージさせるもので、その異様で不規則な、人知を超えた様子を変拍子も効果的に用いて表現している。


このポルターガイストのいたずらはのっけから実にキツい…。

 

尚、この冒頭は中間で再現されるのだが、冒頭がダイナミックさを重視し6/4拍子であるのに対し、再現部では快速なスピードを重視した4/4拍子に変貌している。

こうした書き分けによって、曲中のニュアンスに変化をつけている点にも注目したい。


ほどなく低音群+打楽器による鋭い打ち込みを伴奏に、引き攣った表情と強烈なトリルが印象的な Horn の主題が現われる。


全編に現れる変拍子のエキサイティングなリズムは非常にシビア!これだけでも極めて高い緊張感を放つのだ。


更にダイナミクス強弱の対比、効果抜群のアクセントや Trombone のグリサンド、楽器間の応酬が加わって、音楽に異様な生命感が吹き込まれるのである。Timpani をはじめとする打楽器群そして Piano も大活躍であり、それだけにその演奏には特に鋭い感性を要求されているだろう。

 

23―28小節では、物の怪がまさに妖しく蠢くさまを、密やかだが確固たるリズムで描出している。

特にこの Bass Drum はニュアンスを含め求められている ”蠢き” を表現できるか-

奏者の腕の見せ所となっている。


やがて曲は Allgro Moderato へと移り、いよいよ本格化するポルターガイストのいたずらは、その現象が大きくなったり小さくなったりを繰り返す。

そのさまを Clarinet あるいは Trombone から提示された楽句がいろんな楽器に受け継がれ、ダイナミクスを変化させながら描いていくのである。


またポルターガイストのいたずらは時にユーモラス。諧謔味あふれる Trumpet のソロはその象徴である。

しかし、それに騙されてはいけない-。

一旦静かになって動きを止めた(G. P.)かと思うと、ポルターガイストはその恐ろしい本性を現すのだ!

充分にテンポを落とし、木管と打楽器のおどろおどろしいトリルをバックに、迫りくる恐怖を表す低音群の重厚なフレーズは圧倒的な威圧感だ。

 

そこに Chime の音が聴こえ、続いて音価を倍に拡大し荘厳にコラール風の楽句が奏される。


夜明けが近づき、漸くポルターガイストのいたずらも終わるのか-。

 









すると Ratchetがけたたたましく鳴り響き、それを合図にポルターガイストは前にも増してスピードを上げ、家の中をめちゃくちゃにする。

猛烈な最後のひと暴れだ。


最初の旋律が Trumpet + Horn で激しく再現され ( 'Bells Up' の指示!) 、


さらにテンポを上げて一気に Presto のエンディングに突入。スリリングで鮮烈な印象を残し、曲を閉じる。

 

前半のポルターガイストの描写部分は、リピートして二度奏されるのだが、快速かつ、そしてリズム・音色・アクセント等のめまぐるしい変化で飽きさせることがない。

なかなかにクールな楽曲といえよう。

 

■推奨音源

指揮者不詳

ウエストポイント・ミリタリー・アカデミーバンド

Neil A. Kjos 社 Demonstration CD

全日本吹奏楽コンクールLive録音(東海大一高)を除くと、何とこれしか音源がない。

…しかしこの音源、レベルが高い!

鋭い感性でリズムやニュアンスを捉えた快演である。アクセントや強弱の対比など正確にスコアを再現しているし、終始スピード感のある音色も見事。

デモ音源とは思えぬ、実に満足の行く出来映えとなっている。

  

-Epilogue-

本稿初稿をブログにアップした2008年当時、作曲者クリストファー・サレルノ氏が、ご自身のHPで本稿にリンクを貼って下さるという実に嬉しい出来事があった。その後サレルノ氏はHPを閉鎖され、今では見ることが出来ないが…。

拙ブログは “Hashimoto Sound Hall” という英名にてリンクいただき、

" Checkout the analysis of The Puckish Poltergeist on this Japanese Website ! Very cool ! "

とのコメントも頂戴し、感無量であった。

海の向こうの作曲者ご本人から認めていただけるなんて、思ってもいなかったから…

尚、その旧HPによれば Neil A. Kjos のデモCDは、Westpoint Military Academy Band による1992年の演奏とのことであった。

※その後、サレルノ氏にはTwitterでも拙ブログに 触れていただいた。



 



万人受けする楽想ではないし、変拍子の嵐で演奏難度も高いことがこの曲をとっつき難いものにしているのだろう。しかし確たる個性があって洵に興味深い作品であり、もっと演奏されて良い傑作である。

 


<Originally Issued on 2008.2.27. / Overall Revised on 2022.10.31. / Further Revised on 2023.11.30.>


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