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イーストコーストの風景

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更新日:1月17日

East Coast Pictures Ⅰ. Shelter Island  Ⅱ. The Catskills  Ⅲ. New York

N. ヘス Nigel Hess   (1953-)


-Introduction-

                       Ⅲ. New York 終結部前にイメージされる「ニューヨークの夕暮れ」


■作品概括および作曲者

「イーストコーストの風景」はイギリスの作曲家ナイジェル・ヘスによる1985年の作品である。

ヘスの代表的なキャリアとしてはロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(Royal Shakespeare Company)のホーム・コンポーザーを務めたことが挙げられるが、1875年創設の歴史を有しシェイクスピアの生誕地ストラットフォード・アポン・エイボンを本拠とするこの ”世界で最も有名な劇団” のために、彼は20もの作品を書いた。ヘスはまたテレビ番組を中心に映像関連の音楽に多く携わり、手腕を発揮している作曲家としても高名である。


 

吹奏楽作品も多く、「グローバル・ヴァリエーション」「スティーブンソンのロケット号」などモダンで多彩、かつ突き抜けたユーモアが個性的な楽曲で知られており、中でもこの「イーストコーストの風景」はヘスが最初に出版した吹奏楽曲にして代表作として高く評価されている。

やはりモダンなサウンドとポピュラー音楽に通じる曲想でノリも良く理屈抜きに楽しい曲であるとともに壮大なクライマックスと色彩の豊かさも備え、まさに鮮やかな3枚の絵と云うべき作品となっている。

「組曲『イーストコーストの風景』は3つのコンパクトな ”絵” から成っているが、その着想は私がアメリカ東海岸のごく一部に数度訪れたことがあり、そこから閃いたもの。この地域はその地理や住民が実に極端なのである。」             (作曲者ヘスのコメント)


■この曲の描く情景の題材とは

コメントにもあるように、作曲者ヘスは自身が訪れたアメリカ東海岸に位置するアメリカ最大の都市ニューヨークとそのごく周辺のリゾート地を題材とし、その情景と印象とを3楽章からなる組曲で描写 したのである。

※各楽章はいずれも高揚感が高くそれぞれに完結したイメージを与えるもので、対比的なセッティングになっている

 と解されよう。

 同じ題材の楽曲として「マンハッタン交響曲」(S. ランセン:吹奏楽)や「ニューヨークのロンドンっ子」(J. パーカー:

 ブラスアンサンブル)などが挙げられる。いずれもガーシュウィンの「パリのアメリカ人」の向こうを張って、欧州の

 作曲家がニューヨークを描写しているわけだが、特に「マンハッタン交響曲」第4楽章”ブロードウェイ”のエネルギッ

 シュでスピード感のある楽想が示す活気と喧噪の情景はヘスの描いたニューヨークと共通しており、それこそがこ

 の大都会の強烈な印象となっているのだと感じられるのは興味深い。

 

✔ニューヨーク ( New York )

ニューヨークは市街区のみでも8百万人、エリアでは2千万人を超える人口を擁する”人種の坩堝”であり、経済・政治・スポーツ・芸術・エンタテインメントなどあらゆる面に於いてアメリカのみならず世界の中心的な存在である。

例えば国連本部もこの地に設置されており、またとりわけアメリカの生んだジャズやミュージカルなどのポピュラー芸術においては、まさに総本山と位置付けられるのがニューヨークという街なのだ。


この大都市は、17世紀初めにオランダが入植して建てた「ニューアムステルダム」を起源とするがこれを1664年にイギリスが征服した際に当時のイングランド国王の弟君=ヨーク公に因み「ニューヨーク」と名付けられた。

後の独立戦争直後の5年間はアメリカの首都でもあったのである。


1825年にエリー運河が整備完成されてからは港湾都市機能を発揮、アメリカ屈指の貿易拠点として弛みなく発展を続け現在の繁栄へと至った。

そうした発展の原動力は ”移民” であり、”移民社会” ゆえに深まった多様性(diversity) が新たな価値創造を生んだこと-それこそがニューヨークの魅力と評されるところである。


エンパイアステートビルをはじめアール・デコを取り入れた摩天楼のひしめく近代的な都市の風貌に自由の女神を配する景観、世界的な経済の中心地ミッドタウンで中核を成すウォール街、超一流の文化・芸術施設、繁栄する都市ならではの食事やエンタテインメントの豊富さなど、観光的にも随一の魅力を誇る。


 ベースボールのヤンキースとメッツなど多くのスポーツチームも本拠地をここに構えているし、カーネギーホールや舞台芸術の聖地であるリンカーンセンター、ミュージカルで有名なブロードウェー、メトロポリタン美術館(世界三大美術館)、Eleven Madison Park (世界的に

高名なミシュラン三ツ星レストラン)、メガシティのオアシスたるセントラル・

                       パーク、更にタイムズスクウェアにチャ

                       イナタウンなど枚挙に暇のない観光名

                       所…これらはみなニューヨークにあるの

                       である。

【出典・参考】

「ニューヨーク」 亀井 俊介 著 (岩波新書)


「図説 ニューヨーク都市物語」

賀川 洋 / 桑子 学 著(河出書房新社)

 







✔シェルター・アイランド ( Shelter Island )

ニューヨークのあるアメリカ最大の島・ロングアイランドの東端に挟まれるように位置する

30㎢ ほど (=世界遺産で有名な広島の厳島と同じくらい) の島。 

マンハッタンからは車で2時間 +フェリーで5分の距離にある。


ニューヨーカーにとっては日帰りも可能で気軽なリゾート地であり、夏期には大変賑わう。セレブの別荘やプライベートビーチも多いが、普通の人が普通に泳ぎに行きリラックスできる綺麗な海とビーチがあり、夏の穏やかな海でヨットやボート、カヤックや釣りなども楽しまれている。


古くから富裕層の避暑地であったため、ニューマネーによる開発を逃れたことも特筆すべきである。このため古き良き佇まいの建物が多く残り、また手つかずの自然-深い緑にも包まれたその景色はどこも美しいと評される。

更にオイスターやソフトシェルクラブなど美味なシーフードに恵まれ、また海を挟んですぐ北側にあるグリーンポートはワイナリーが集まっているエリアであるため、多彩なローカルワインも楽しめるとのこと。


「ニューヨークの都会の喧騒を離れて過ごす時間は貴重で、とてもリラックスできます。」との評価は多く、人気も頷けるものである。

 ※音楽関連では、世界的なヴァイオリニスト、イツァーク・パールマンが主宰する後進教育プロフラムの開催拠点

  となっており、1994年以来毎夏12~18才の若き音楽学生がここシェルター・アイランドで7週間に亘るミュージ

  ックキャンプに参加している。

 

【出典・参考】

 Town of Shelter Island HP  https://www.shelterislandtown.us/

 The Perlman Music Program HP  https://www.perlmanmusicprogram.org/about/history

 尚、リゾート地としてのShelter Island については多くの在NY邦人の方々のSNS、並びに旅行サイトの評価から情報

 を収集した。


✔キャッツキル山地 ( The Catskills ) ニューヨーク市街から200㎞ ほど北上したハドソン河の西側に位置する、広大なキャッツキルパークの中心を成す山地である。 


キャッツキルパークは約3万 ㎢ に及ぶ自然保護区であり、ニューヨーク市の水源地として厳しい規制によりその美しい水と環境とが200年に亘り守られているという。

ニューヨーカーの感覚としては東京に於ける奥多摩や秩父に近いとも云われる。

 




※尚、killという言葉がその名についているが、これは「小川」「水路」などを表すオランダ古語に由来するもので、水辺

 に近いところを表し物騒な意味はないとのことだ。 実際、前述のようにオランダの入植が先行したこのニューヨ

 ーク周辺には-killという地名が多いのである。 (Webster米語辞典に記述あり)


1960年代後半までは避暑地としての開拓も進み、富裕層の別荘や大規模なホテルなども多かったが、自動車と高速道路の発達によりニューヨーク市街から完全な日帰り圏内となったことで、避暑施設は不要となり現在では残っていない。

 

しかし現在でも冬はスキー、夏はフライフィッシングや川下り、ハイキングにキャンプなどが楽しめる手近なリゾートとして親しまれている。

 

美しく聳えるキャッツキル山地に加え、山間各所に見られる沢から流れ落ちる滝はまさに一瞬息を呑むほどの美しさと評されており、秋の紅葉も見事である。

こうした景観の素晴らしさに人気は高い。


【出典・参考】

キャッツキル オフィシャル・ガイド https://www.visitthecatskills.com/

緑のgoo : vol.8 「アートとエデュケーションとアグリカルチャー、ロハスが息づくキャッツキル」 

 

■楽曲解説

既に述べた通り、いずれも情景描写的な3つの楽章で構成される組曲である。

ヘスのコメント (「 」) も引きながら内容を見ていこう。

Ⅰ. シェルター・アイランド

「シェルター・アイランドはロング・アイランドの果てといったところに位置する小さな島で、ニューヨーク市街からはクルマで2-3時間だ。夏にはシェルター・アイランドに惹きつけられた旅行者でごったがえすのだが、冬には見事に人気 (ひとけ) が無い。

この季節、荒れ狂う大西洋の襲撃に敢然と対峙するこの島は、海霧と横殴りの雨に覆われている。この曲の情景は、シェルター・アイランドで過ごす冬の週末の良き想い出である。」

 

既に述べたように、シェルター・アイランドはニューヨーク郊外の

”夏の” リゾート地として人気である。だが、ヘスは実体験から  ”冬の” シェルター・アイランドを描いた。

 

(左画像:冬のシェルター・アイランドの情景)


現地アメリカの旅行サイトを見てみると、彼氏から冬のシェルター

・アイランドで週末を過ごそう、と誘われ戸惑う女性の投稿があった。夏はリゾートとして賑わうのを知っているけど、冬には一体何をしに行くの???とややふくれっ面ですらある。


これに対して「彼氏はただあなたと穏やかでロマンティックな週末を過ごしたいんじゃない?冬のシェルター・アイランドは本当に安寧で、ニューヨーク市街から行くなら素晴らしい気分転換になるわよ。」などのアドバイスが寄せられたこともあり、結局彼女は彼氏に従って出掛けた様子である。

結果、この彼女は冬のシェルター・アイランドに大満足したと報告している。美しい風景、こじんまりとはしているが素敵な宿、シーズンオフであっても頻繁に行き来するフェリーで対岸へ渡ってのワイナリー巡り -どこへ行っても混んでいなくて、恋人二人いい時間が過ごせたようだ。一番美味しかったお店はシェルター・アイランドにある”The Vine Cafe”で、ここが一番混んでいたと。冬のシェルター・アイランドは静かだがとても素晴らしく、同じニューヨーク州で過ごしたとは思えない ”a great weekend” だったと結んでいる。

他のコメントを見ても、冬のシェルター・アイランドがニューヨーカーにトップシーズンとはまた違った素晴らしい”癒し”を与えてくれることは間違いないようだ。

この曲を ”a fond memory” であると解説している作曲者ヘスの心にも、きっと冬のシェルター・アイランドで過ごしたロマンティックで素敵な想い出が刻まれているのだろう。


Bright(♩=138)12/8拍子の冒頭は、やはり冷たい雨を乗せた風を表す Flute の素早い3連符のフレーズに始まる。

4拍3連のビートでブレイクすると、主要主題のモチーフが Horn、続いてこれに Englishhornが加わって提示される。そしてこの伸びやかで暖かな旋律は朗々たる Trumpet によって全容を表すのである。

第1楽章では全編を通じ、海霧と横殴りの雨を表す木管の細かなフレーズに金管群の吹き下ろす大きな冷気が加わって表現される”情景”が、それとはうらはらに暖かく幸せに満ちた”心象”を示すこの主要旋律に絡みつつ描かれていく。

 

これらが多様な楽器のとりどりの音色とダイナミクスの起伏に次々と移りゆき豊かな音楽となる。中でも、少しばかり顔を出した最終楽章「ニューヨーク」のモチーフを挟み、2度奏される抒情的な Oboe+Englishhorn のソリが殊のほか美しい。

そして、徐々に雄大さを増しやがてあの美しい旋律が力強く高らかに奏され、Trumpet のハイトーンとともに劇的なクライマックスへと到達するのである。力を込めて奏されるほどにこの旋律の素晴らしさ、豊かさが胸に迫ることだろう。


ほどなく鎮まるや再び風のフレーズが現れ、Fagotto のソリに導かれたファンタジックな音風景に見送られて静かに曲は閉じる。


Ⅱ. キャッツキルズ

「ニューヨーク州北部に鎮座するキャッツキル山地-そこでは静穏と力強さ、そして安寧と荘厳さとが絶妙に融合している。一度目にしたならば、その魅力に何度も何度も呼び戻され、再び訪れたくなってしまうのだ。」

 

Steady4(4/4拍子 ♩=72)と標され、Trombone を中心とした静謐で落着きのあるコラールにより厳かに開始され、やがて Oboe のロマンティックな歌が聴こえてくる。


この序奏部に続いて甘美極まるリリックなソロを、Cornet が歌い出す。

Trumpet と Cornet で実際の音質の差は微妙とも云われるが、このソロこそは英国式ブラスバンドの擁するあの ”コルネット” のまろやかな音色(ねいろ)こそがイメージされて已まない。ここでは伴奏のオルガンの如き厳かでファンタジックなサウンドも魅力的である。

続いて旋律が Trombone へと移り、これをバックに木管群が美しくまた自在に歌う。Cornetに戻って主題が変奏され高揚するが、クライマックスの手前で引き返し、鎮まって冒頭が呼び返されるのが心憎い。


再び Cornet のソロから始まる音楽の流れは一層雄大なものへと発展していく。

気高い自然の威容を讃える堂々たるクライマックスとなり、スケールの大きなサウンドで締めくくられる。


Ⅲ. ニューヨーク

「ニューヨーク…より厳密に云えばマンハッタンの情景だ。

この奇矯で素敵な都市に慣れ親しんだ人にとっては、この曲が描いた情景に説明は要らない。まだニューヨークの虜になっていない方々には、ニューヨークを訪ねた折に目のあたりにするであろうものを、この曲でささやかながら味見してもらおうというわけさ!」


マンハッタンとはウォール街に5番街、タイムズスクエアやブロードウェイに名だたるホールや美術館などを擁し、まさにニューヨークの中心たる或いはニューヨークそのものを指し示す地区である。

 

前述のように政治も経済もスポーツも芸術も、最先端からアングラに至る文化や風俗も、それら全てが集約した街は良くも悪くもエネルギッシュさに満ち、魅力が満載だ。

当然そこには騒動や犯罪も起こるわけだが、それらが全部ごった煮になって噴きこぼれているさまが、スピード感溢れる音楽で表現されている。


 

冒頭(Bright4 4/4拍子 ♩=168)のモチーフ提示からして生命感に満ち溢れ、そのスピードと鮮烈さに惹きつけられる。ここで ”立った” サウンドの低音のカウンターがドンピシャのタイミングで決まったら、それだけで鳥肌立つこと請合いだ。


主部に入ると元気な Tom toms のお囃子に乗って第1主題が奏される。

活気と浮き立つ感覚がとても愉しい音楽だ。

途中7/8の変拍子による変奏を挟むが、ここでは Jaw Bone ( Quijada キハーダ) や String Bass の音色と機能が効果的に使用され楽曲に魅力を加えているのも見逃せないし、かと思うと続く Muted Trumpet ( + Piccolo )の奏する経過句のバックには Claves Maracas が躍るなど、まさに多様な文化の坩堝であるニューヨークを体現した曲想である。

更に金管楽器の growl 奏法を絡めたり、ダイナミクスと各楽器を目まぐるしく入れ替え決して飽きさせることのないままエナジティックに高揚させていく。

※Quijada キハーダ ( 正式名称 Quijada de Burro )

その名の通りロバや馬の顎を乾燥させて作られるラテンパーカッション。「歯の部分を撥で擦る」「顎の骨本体を手で打って震わせる」の組合せで演奏する。”カーッ” ”カラララララ”などと表現される、個性の強い音が出る。入手できない場合はヴィブラ・スラップで代用されるのが一般的である。


この高揚の頂点を越えてすぅっと視界が開け、美爽な第2主題がHorn ( +Euphonium )に現れる。

この最終楽章ではずっと Horn と Euphonium が主題を奏していたのに、楽器は変えずに転調を絡めてまたガラリと変わった感じを示すのが凄い!

 ※クッキリと姿を現わし、堂々と主役を務めるここの Horn だが”ベルアップ”という感じでもない。

   あれこれ考えたが指示するなら ”満面の笑みで!” といったところか。


第2主題は木管へと移り、再び転調しさらに伸びやかで流麗な Trumpet のフレーズになる。シンコペーションの賑やかな伴奏を従えてこれを歌い上げると第1主題が戻ってきて、けたたましくホイッスルが鳴るや主題のモチーフの応答から、6/8拍子の強いビートで鳴動するクライマックスを迎える。


このエキサイティングな曲想は G.P. で一転、Steady4 となり Flute、次にダブルリード楽器のソリが穏やかに第1主題のモチーフを奏でるのだ。

続いて描かれるのはニューヨークの黄昏時だろうか- 旅の想い出に浸り、思い切りセンチな気分になっていると…それをつんざくパトカーのサイレン!


…やれやれ、この街の騒々しさは旅人を感傷に浸らせてもくれない。

コーダ ( Tempo primo )に突入し第1主題が一段とスピードを増して駆け出すや、まさにエネルギーの塊となって捲りに捲り ( Presto )、一気呵成の鮮やかさで全曲を締めくくる。


 ※ここでの”サイレン”の「けたたましさ」は極めて重要!

  音楽的に(演奏的に)最もコントロールしやすく表現しやすいのは「サイレン・ホイッスル」(下左) だと思うが、

  臨場感のある演出にはぜひ「サイレンそのもの」を使いたいところ。

  手動サイレンも演奏用(?) だと直ちに音をストップするスイッチが装備されている(下中)とのことだが、音の

  出だしは?全くの電子サイレン (メガホン型/下右) では如何にも味気ないし…思案のしどころである。


「イーストコーストの風景」は具体的な場面描写が多く捉えやすい楽曲である。

しかしながら各部分部分を対比させるべく、それぞれを ”らしく” 演奏する=演じ切ることが求められる楽曲でもある。譜面を無難に音にしただけではこの曲の魅力は発揮しきれないだろう。こういう曲こそイメージを豊かに膨らませ、それを表現したメリハリの効いた演奏が求められるのだ。逆に云えば、素敵な旋律を持ちさまざまな”仕掛け”がなされているこの曲は、そうした表現ができたなら、この上なく愉しい音楽になる。


例えば、”ニューヨーク” の最後、アッチェルランドを経て突入した Presto の最終5小節で打楽器群が「楽譜に正確に」とばかりにマーチの如きフィーリングで演奏してしまうとエラく幼稚な音楽に聴こえてしまう。ここはあたかも和太鼓の乱打ちに近いニュアンスで一気呵成さを表現することが求められよう。

書いてある音符を追うのではなく、「どういう音楽にしたいか」を考えて楽譜を読み解くことこそが肝要なのである。

 

■推奨音源

ナイジェル・ヘスcond.

ロンドン・シンフォニックウインドオーケストラ

さすがは作曲者自作自演盤、”完璧”とまではいかないがこの曲の魅力を存分に語った名演。各ソロも名手の優れた音色と豊潤な”歌”で聴かせてくれる。テンポ設定・間の取り方・ダイナミクス設計も見事で、実にイメージ豊かな音楽となっている。

”ニューヨーク”に登場するサイレンにはサイレン・ホイッスルを使用し、音楽的なコントロールと表現を優先。全編に亘りこうした小物の”演技”も大変素晴らしい。


【その他の所有音源】

加養 浩幸cond. 土気シビックウインドオーケストラ

石津谷 治法cond. なにわオーケストラルウインズ(Live)

鈴木 孝佳cond. TADウインドシンフォニー(Live) 山本 正治cond. 東京藝大ウインドオーケストラ


-Epilogue-

本稿の執筆に際してあたった文献や資料、写真の多くには、あの「世界貿易センタービル」の姿があった。1985年に作曲されたこの「イーストコーストの風景」が音で表現するニューヨークの情景にも、もちろんあのモダンな摩天楼が描かれていたはずなのだ。

 

ご存知の通り、大都会ニューヨークを象徴していた「世界貿易センタービル」は、2001.9.11.のテロによって2,700人を超える尊い人命とともに消滅した。あの悲劇は、世界中の誰もが決して忘れることのできないものだ。

それに加えて今、折しもロシアのウクライナ侵攻 (2022.2.24.~) 、そしてパレスチナ・ガザ地区におけるハマスとイスラエルとの交戦開始 (2023.10.7.~)と、人類は世界を分断する戦争の脅威と不安に再び曝されている。

 

教条めいたことは言いたくないが、音楽が楽しめるのも平和であればこそ-

ニューヨークを題材にした実に愉しいこの曲と接する時も、どこかで必ずそのことには想いをめぐらせねばならないであろう。

 


     <Originally Issued on 2008.2.11. / Revised on 2022.6.13. / Further Revised on 2023.11.1.>



 
 
 

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