The Sinfonians -Symphonic March
C. ウイリアムズ James Clifton Williams (1923-1976 )
-Introduction-
”これぞ吹奏楽!”
の一曲といえば、この曲だろう。
■楽曲概説
壮麗なファンファーレと聴くものを圧倒する重厚なサウンド、鮮やかで心躍らすドラム・マーチに、かつて楽隊の行進を賑わせたファイフ (Fife) をイメージさせる Piccolo のソロ…。
クライマックスでは実にスケールの大きな楽想となり、パワフルで濃厚なメロディにTrumpet が華やかに絡まって-その Trumpet は一層ド派手にテンションの高いハイトーンを炸裂させていく。終盤はまるで重戦車のような音楽の質感が、堪らなく心を揺するのだ。
まさに吹奏楽の持つ魅力を詰め込んで、余すところなく堪能させてくれる。
これはまさに、作曲者クリフトン・ウイリアムズならではの楽曲である。
ウイリアムズは名作「ファンファーレとアレグロ」「交響組曲」にてABAオストワルド作曲賞を第1回・第2回と連続受賞した吹奏楽オリジナル曲の巨匠だが、その手腕はこの「ザ・シンフォニアンズ」でも縦横無尽に発揮されているのだ。
この曲はクリフトン・ウイリアムズ自身も ”Sinfonians” メンバーとして名を連ねる米国の音楽愛好者団体「ファイ・ミュー・アルファ・シンフォニア友愛会( Phi Mu Alpha Sinfonia Fraternity of America )」の委嘱により作曲されたもので、アーサー・サリヴァン (Arthur Sullivan) 作のメロディーにチャールズ・リュットン (Charles Lutton) が詞を付した彼らの愛唱歌 ”Hail Sinfonia” をフィーチャーしている。
Hail Sinfonia, come brothers Hail, シンフォニアを歓呼で迎えよ、来たれ兄弟よ 歓呼せよ
May Phi Mu Alpha ever reign, ファイ・ミュー・アルファよ とこしえに繁栄あれ
Hearts, hands, and minds we pledge to thee 鼓動する胸も、手も心も、みなもて我ら汝に誓約す
All Hail, all hail, all hail Sinfonia ! 皆歓呼せよ、皆歓呼せよ、歓呼でシンフォニアを迎えよ!
この否応なく意識高揚に向わせる歌のエネルギーを、ウイリアムズは副題通りシンフォニックな行進曲へと昇華したのである。
【出典・参考】「吹奏楽の歴史」:ヴァージニア大学教職員HP (2017年10月当時:現在はリンク切れ)
■楽曲解説
冒頭からして見事なまでに吹奏楽らしいファンファーレ!
華々しい Trumpet(+Horn )に始まり、中低音の刻みと木管群のトリルがカウンターとなる。続いて濃厚なフルテュッティのコードが吹き鳴らされ、これを凛としたパーカッション・ソリで締める、というカッコ良さだ。
これが繰返されるのだが、二度目は音域を上げより鮮烈に且つより旋律的なものとなって高揚感を込めているのがさすがである。そして三度現れるファンファーレの間に挿入された、毅然たる休符フェルマータが最高にいい!
(逆に云えばこの休符を如何にうまく音楽にするか、センスが問われる。)
ファンファーレは楽句を発展させつつ高揚し、その頂点で視界が開け Horn によって ”Hail Sinfonia” の旋律が雄大に提示される。
これはハーモニアスで美しい Trombone ソリに受け継がれ、徐々に楽器を増やしスケールを拡大していくのだが、この旋律に応答して挿入されるリズミックな木管を伴ったコラールがまた味わい深い。ここはまさに ”染入る” ような音楽-その豊かで柔和な表情に魅力があふれる。
意を決したように Trumpet が高らかに旋律を締めくくり、Percussion ソリへ。吹奏楽の醍醐味である威風堂々としたドラム・マーチを楽しませると、
これに続いて Snare Drum 1台のみで奏するリズムに乗って、”Hail Sinfonia” を変奏するPiccolo ソロが現れる。
ここは前述の通りファイフ鼓隊の行進を想い描かせる楽しいものだが、フレーズをつなぐ意識をもって、より大きな一連の音楽の流れを作れるようにしたい。※
※後掲の推奨音源を指揮した兼田 敏は、このPiccoloソロでフレーズの終わり の音を記譜より長く奏させ、より
大きな歌の流れを作り出している。スコアとは異なるが、この方が音楽的な演奏に思える。
尤もウイリアムズの意図は、練習番号3からは Piccolo ソロのフレーズの隙間に伴奏のスネア・ソロの16分音 符が絶妙に掛け合うという、リズミックさを重視した楽想を創ろうとしたものだろう。
続く練習番号4からは Piccolo ソロのフレーズを繰返す一方、旋律をたっぷりと奏する Trombone も加わって
メロディックな楽想となるのだから、練習番号3と4とで対比を作ろうとしたに違いない。
しかし実際に Piccolo ソロがフレーズの終わりの音を記譜通り短く切る演奏を聴くと、往々にして無造作な
切り方になるのと、肝心のスネアとの掛け合いもキマらず、音楽の流れが繋がらず貧相になってしまうものが 多い。これでは音楽表現として、兼田 敏の演出に劣後しているというほかない。
(尚、この兼田敏による演奏では元々の譜面を変更した部分が他にも見られる。)
ソロの快活なフレーズは Flute も同奏して繰返され、これをコラール風にハーモニーでなぞる Trombone や打楽器も加わって賑やかに演奏されていく。
再びドラム・マーチに戻って前半を終うと、いよいよ ”Lirico” との表示がある Trio だ。
Trio は、美しく ”控えめだが芯の強い” 旋律が朗々と歌い上げられていく。Horn に現れる対旋律もこれに似つかわしい素朴なものである。
徐々に楽器が増して高揚すると、抒情性はそのままに一層スケールを拡げ、これを華麗なTrumpet のファンファーレと木管高音のトリルとで対比的に彩ることで、非常に立体的な音楽となっている。…最高にカッコイイ!
更にダイナミクスを上げ、Maestoso のこれぞ「グランド・シンフォニック・マーチ」という曲想に突入し最大のクライマックスへと向う。同じ旋律が今度はマルカートで奏され、これを三連符が特徴的なスネアのリズムが鼓舞し、まさに力感漲る、威風堂々たる姿へと変貌している。
ここでのカウンターフレーズで最高音の Hi-B♭をバシッと決められたら Trumpet は ”男前” である。
クライマックスの最終盤でのクレシェンドを、ウイリアムズは金管群に託す。
その直後にすぅっと転じる弱奏は、夢幻の如き木管群による Cantando -かかるコントラストこそが、音楽の面白さというものだろう。
コーダ(Grandioso)は吹奏楽の持つ豊かなサウンドを充満させ、ベースラインの8分音符のビートが緊迫と生命感も加味して劇的なエンディングとなる。
■推奨音源
洵に明快かつ骨太な音楽であるから、小細工なしの堂々たる演奏が好ましいと思われるし、この曲の持つ重厚なサウンドは存分に味わいたいところ。
また実演では Trumpet のスタミナにかなり厳しいものがあるため Live での好演は少ないので、下記の演奏をお奨めしたい。
兼田 敏cond. 東京佼成吹奏楽団
実直にして質実剛健、しかし部分部分を適切に表現しコントラストを見事に演出した好演。終始確りと ”張った音” で奏され、どの演奏よりもシンフォニック。またテンポ設定も非常に適切で ”堂々たる” この曲のあるべき姿を示している。
最終盤の直前、ふっと弱奏となるCantandoの抒情なども心憎く、そのバックに遠く聴こえるTimpaniのロールの奥ゆかしい情感も最高!
但し…残念ながらCD化されていない!
( 画像は収録LP )
大井 剛史cond. 東京佼成ウインドオーケストラ
クリアな高音質録音が漸く登場した。
クリフトン・ウイリアムズならではの充実した骨太のサウンドが美しく響きわたる。それでいて端正な曲作りが成されている好演。
【その他の所有音源】
鈴木 孝佳cond. TADウインドシンフォニー [Live]
ハリー・ベギアンcond. イリノイ大学シンフォニーバンド [Live]
スティーヴン・ピーターソンcond. ノースショア吹奏楽団
ローウェル・グレイアムcond. アメリカ空軍タクティカル・コマンド・バンド
ティモシー・レアcond. テキサスA&M大学ウインドシンフォニー [Live]
バリー・エリスcond. ロウンツリー・ウインドシンフォニー [合唱入り]
-Epilogue-
この曲は「古い」のだろうか-。
我々の世代には、この曲に対する思い入れがあるのに、若い世代にないのは流行の成せるものなのだろうか?
この曲には世代や時代を超えた魅力が備わっていると感じる私は、きっと若い世代がこの曲を知らないということ、それだけなんだと考えて、本稿のようにアピールを行っている。
若い方々に「へえーこんな曲もあるんだ、面白いじゃん。」と感じていただくきっかけになれたらと常々思っているのである。
この「ザ・シンフォニアンズ」は、前述の通り「吹奏楽」を体現しその魅力を堪能させる楽曲であり、演奏機会が近時少ないのは本当に残念!
Trumpet をはじめ金管群に自信のあるバンドはぜひ演奏されては如何だろうか。
<Originally Issued on 2013.7.15. / Revised on 2022.9.25./ Further Revised on 2023.11.29.>
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