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ダイアモンド・ヴァリエーション

更新日:5月16日

Diamond Variations   R. E. ジェイガー Robert Edward Jager (1939- )


-Introduction-

私は吹奏楽と出会ってからさまざまな音楽を聴き演奏し、それこそ無数に好きな曲ができたけれども、ロバート・ジェイガーの作品はまた格別である。


理屈抜きに惹きつけられ、心躍る楽曲ばかり…そんな傑作揃いの作品たちの中でもジェイガー自身もお気に入りに挙げたうちの一曲 「ダイアモンド・ヴァリエーション」 は、私にとってもかけがえのない大好きな作品である。


Robert Jager at his desk in 1982


■楽曲概説

✔「変奏」の元となった主題 1968年イリノイ大学バンドの創立75周年を記念して指揮者マーク・ハインズレーからの委嘱によりジェイガーが作曲した作品で、同年にジェイガー自身2度目となるABAオストワルド作曲賞を受賞した傑作。

イリノイ大学フットボールチームの応援歌(マーチ) 「イリノイ・ロイヤルティ」( llinois Loyalty ” We’re Loyal to You, Ilinois ” ) のトリオの旋律による変奏曲である。

イリノイ・ロイヤルティ」 は T. H. ギルド(Thacher Howland Guild 1879-1914 ) によって1906年に作詞作曲され、翌1907年に初出版されたイリノイ大学の愛唱歌である。ギルドはイリノイ大学英語学部の教員を務める傍ら、劇作や作曲を行っていた人物であった。




イリノイ・ロイヤルティ」 はもちろん現在でも愛奏・愛唱されており、下記にてイリノイ大学マーチングバンドによる演奏も聴くことができる。


これを聴くと、「ダイアモンド・ヴァリエーション」が ”変奏曲” でありながら、ほとんど原曲のイメージを持たないものであることが判るだろう。第2変奏冒頭のA音などはそのままなので、まだ関連が判りやすいが…。

「ダイアモンド・ヴァリエーション」が、実は非常にオリジナリティの高い作品になっているということは疑いないのである。


✔楽曲の構成と概括

「ダイアモンド・ヴァリエーション」 は、行進曲「イリノイ・ロイヤルティ」のトリオの旋律による5つの変奏曲から成っている。変奏はテーマそのものではなく、メロディーの断片に基づいている。変奏されるテーマは伝統的な形では現れず、実際に現われるのは 第5変奏の中盤の金管楽器による1回のみなのだが、その現れ方すらも巧妙に隠されたものとなっている。

短い序奏の後、第1変奏では主題の断片が木管楽器で軽快に弾むように提示される。第2変奏は不気味で、テーマの別の断片にホルンとトロンボーンが対位法的に加わる。チューバとユーフォニアムが疾走して始まる第3変奏では、各楽器の色彩が光を放つ。この第3変奏とは対照的に、第4変奏は主題の断片にロマンチックなアプローチを施したものである。

最後の第5変奏は一見軽くてシンプルな曲調で始まるが、各楽器によるフィギュレーションと和声のテンションを活用して徐々に華麗なクライマックスに達し、最後は4つの和音による解決をみて曲を締めくくる。

-作曲者ジェイガーによる解説 (フルスコア所載)


序奏部の主題提示に続く5つの変奏曲、そしてコーダで構成されているが、前述の通り旋律やフレーズもオリジナリティが高く、ダイナミックにしてロマンティック、そしてエキサイティング…と性格の異なる5つの変奏の対比が実に見事で、音楽的興奮に満たされる傑作だ。


通常の「変奏曲」の様相とは異なり、直接的に「それと判る」変奏が展開することのない変奏曲であり、

最後の第5変奏にて序奏で示された旋律のモチーフは顕かになるものの、その序奏部旋律が完全に再提示され帰結感を醸すのはコーダに至ってからであり、そこまでの「変奏」においては、序奏で示された旋律すら忘れて聴き入ってしまうであろう。

(そもそも序奏部が提示する ”主題らしきもの” 自体が、その抽出元であるはずの 「イリノイ・ロイヤルティ」 からすっかりかけ離れているのである。)


また第1・3・5変奏はそれぞれ異なった個性を持つ舞曲風の変奏となっており、これに「不気味」な第2変奏と「ロマンティック」な第4変奏を挟み込むもので、あたかもバレエ音楽の如き印象を与える作品となっている。


■楽曲解説

✔序奏


無伴奏の Oboe ソロで2度繰り返される主題は、続くファンファーレ風の金管群の堂々たる

咆哮でしっかりと提示され、Harp を伴った夢見心地な木管のサウンドで仕舞う。

この旋律提示による序奏部に続き、5つの変奏曲そしてコーダと展開していく。


✔第1変奏

木管群によるリズミックで洒落たフレーズで始まる、ワルツ風の変奏。


このフレーズが展開されていくのだが、そこで高音と低音・木管と金管・テュッティと弱奏との対比が見事に映えた音楽となっている。


✔第2変奏

ジェイガー自身が「不気味な (sinister)」と称した変奏で、「イリノイ・ロイヤルティ」のトリオ旋律から抽出したA音が、人の深い息遣いの如く奏される中、Horn およびそれを追いかける Trombone のこれまた息の長い旋律が朗々と奏される。


これに続く冷ややかな Flute ソロと Oboe の応答、不吉で不安げなサウンドが印象的。蠢く打楽器群も奇怪さを感じさせる。 再び冒頭が再現されるが、今度は旋律がミュートを着けた Horn と Trombone により遠く彼方から聴こえてきて、この変奏はほどなく更に遠くへ消えていく。


✔第3変奏

直前の第2変奏とはうって変わって低音群のスケルツォ風の勇壮な旋律に始まり、ラテン舞曲風のリズミックな伴奏に乗って、中低音が鮮やかな極彩色を放つ。

変拍子の重厚なテュッティのあとに続く、毅然とした終止が印象的。

✔第4変奏 終始ロマンティックな楽想でジェイガーの真骨頂が発揮された全曲の白眉。

ファンタジックな伴奏に導かれて甘美を極めた Alto Sax. ソロが歌い出し、木管群の豊かな歌となる。更にノスタルジーを加えた Trumpet ソロがこれに続く。


全合奏になってアゴーギグを存分に効かせながら、一層の ”ロマンティック” の高揚は胸に迫る。まさに夢見るような音楽だ。

Harp も効果的で当時の吹奏楽曲として極めて斬新である。

その高揚感を冷まし、どこかメランコリックな雰囲気も醸す Oboe と Clarinet によるデュエットがまた実に粋で、しみじみと心を打つ。



冒頭の幻想的な曲想に戻り、Alto Sax. ソロが再現されてうっとりとしたまま曲を閉じる。


✔第5変奏 - コーダ

冒頭に提示された主題のモチーフを使用し、変拍子を効果的に効かせた浮き立つような舞曲に始まる。


Trumpet - Clarinet - Horn とソロを使って音色の変化を演出しつつ、変拍子のクライマックスに向かう。

激烈な Timpaniソロのあとテンポを捲って、壮絶に交錯するテクスチュアのアンサンブルとなり、その頂点でこの上なく効果的な G.P. が!


主題を再提示するコーダはもう一気呵成。伸びやかな Horn と Sax. の旋律を聴かせた次の瞬間から、水が堰を切って流れ込むようにエキサイティングなエンディングへ。

機関銃の如く鮮烈極まりない Trumpet + Horn の8分音符に導かれ、熱狂のうちに全曲を閉じる。


■推奨音源

汐澤 安彦cond.

東京佼成ウインドオーケストラ

この曲の決定的な、突抜けた名演!

テンポ設定が極めて適切で、アゴーギグやテンポの捲りも過不足なく、音色・ダイナミクスなどのコントラストも見事に表現、スピード感のある音色の快演である。

残念ながらCD化はされておらず、LPレコードしか音源が存在していない。この演奏を聴けば「ダイアモンド・ヴァリエーション」がきっと好きになるはずなので、ぜひ広く聴かれてほしいと願っているのだが…。



【その他の保有音源】

 渡邊 一正cond. 大阪市音楽団

 エドワード・ピーターセンcond. ワシントン・ウインズ

 アラン・L・ボナーcond. アメリカ空軍軍楽隊


-Epilogue-

吹奏楽はもちろんさまざまなジャンルの音楽に魅了され、大好きな曲感動した曲がそれこそもう溢れかえっている私だが、この「ダイアモンド・ヴァリエーション」については好き過ぎて、とても冷静になど語っていられないほどである。


他にも私が再評価を訴えている楽曲は数多いが、特に「ダイアモンド・ヴァリエーション」がなぜ今や忘れ去られたかのようになっているのかは、全く理解できない! 推奨した汐澤版の名演を広く聴けるようにしてほしいし、またそれに比肩する胸のすくような好演を世に出してほしい。そしてこの名曲がもっともっと演奏されてほしいと心から希求する。



<Originally Issued on 2006.8.16. / Revised on 2011.1.3. / Overall Revised on 2024.1.14.>

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