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チェルシー組曲

更新日:5月16日

Chelsea Suite Ⅰ. Intrada  Ⅱ.Canzone Ⅲ.Allegro

R. ティルマン Ronald Thielman  (1936- )


-Introduction-

私が吹奏楽に出会ったころ、吹奏楽の最新の動向を教えてくれるものはCBSソニーのアナログレコードだった。

当時、CBSソニーは全日本吹奏楽コンクールの実況録音 (永らく金賞受賞団体、およびそれに準じる団体のみを収録していた) を発売するほか、毎春新譜を録音したLPも発売していたのだ。

私の世代ならびにそれ以前の方は、そのLPジャケットをご覧になると懐かしさがこみあげてくるのではないだろうか?

 


この当時、吹奏楽の録音はマーチを除けば本当に少なかった。現在でも、他ジャンルと比較して充分な音源があるとはいえない吹奏楽であるが、この時代における希少さは現在からは想像もつかないだろう。


■作曲者

「チェルシー組曲」作曲者ロナルド・ティルマンはアメリカ/シカゴの生まれで、作曲とトロンボーンを専攻して学位を得、作曲の傍ら教育者として音楽に携わってきた人物である。特に1969-1995年に亘りニューメキシコ州立大学にて教鞭を取った記録があり、これが彼の代表的なキャリアとなっているようだ。

(尚、「ジールマン」との日本語表記もあったが、「チェルシー組曲」のスコアを確認したところ ”Tillman" と発音するとの注記がある。)

 

ティルマンの他の作品についてはウエスタン・イリノイ大学ウインドアンサンブルによって作品集が録音されている。これに収録された8曲の他にも ”Stonehenge” ”Festivada” ”Dedication and Dance”といった作品が確認できる。

この作品集を聴いた印象としてはモダンで親しみやすく、また打楽器の効果的に使用した楽曲が多いが、やはり「チェルシー組曲」が非常に良くまとまった出色の作品であることは間違いない。


■楽曲概説

この「チェルシー組曲」 (1965年) は前述したCBSソニーのLPシリーズの草創期、”ダイナミック・バンド・コンサート” シリーズのVol.2に収録されたことで、人口に膾炙した作品である。当時は演奏される機会も多く、大変人気の高い楽曲であった。

全体でも6分強の短い3つの楽章から成る作品で、確かに旋法は古めかしいムードだがサウンドはなかなか鮮やかである。また Percussion ソリをフィーチャーしたり、活気溢れるリズム・パターンを使用したりと意外にモダンな曲想を持っている。

もはや忘れ去られたレパートリーとなった感があるがそれは不当な評価であり、名曲として永く大事にしたい。一度聴いたらその素敵さは理解いただけることと思う。

 

尚、作曲意図等に詳らかな記録は見当たらない。アメリカの高校生バンドのために作曲された作品だが、有名なイギリス/ロンドン中心部のチェルシー地区に因んだものか、はたまたそのチェルシーの名をとったアメリカの町に因むものかなど、詳細は不明である。


■楽曲解説

Ⅰ.イントラーダ

冒頭から、Trumpet の奏でる華やかで快活な旋律が印象的!

この旋律が全曲を支配している楽曲なのだが、この旋律を際立たせる勇壮なバッキングも聴きものである。

 

続いて現れる古風な旋律は Clarinet 低音域の音色を生かしたしっとりとした趣があり、華麗な Trumpet の旋律と好対照を成す。

 

それが2回繰返されて、この ”序奏” が形成されている。


 

 

 

 

 

 

 

  

Ⅱ.カンツォーネ

広くイタリア歌曲を表す表題を持つこの楽章は、大変抒情的な音楽。”ダンテやペトラルカによって始められたとされるイタリアの抒情詩”というカンツォーネ本来の意味が込められているように思う。

緩やかなシンコペーションの伴奏にのって木管楽器が歌いだす旋律は美しくロマンティックであり、ほどなく Trumpet も加わり更に抒情を深める。


伴奏も効果的に音楽を高揚させ、クライマックスを形成していく。


Ⅲ.アレグロ

一転、低音楽器のマーチ風な伴奏に乗って冒頭の旋律が変奏され、Horn から Trumpet、木管と受け継がれていく。

やがてテンポを緩め雄大なムードとなり、感傷的な旋律が現れて一旦静まるが、Percussionソリに導かれて冒頭部分が力強く再現される。この Percussion ソリのカッコ良さは特筆すべきものである。


そして、モダンなバッキングに乗って登場する Cornet (Trumpet) の華麗なソロこそは、全曲の白眉であろう。


勇壮さと重厚さを増して終結部へ向かうが、そこでも Trumpet の高音がサウンドにテンションを与えており、その輝かしさのうちに曲を閉じる。 

 

■推奨音源

飯吉 靖彦 (汐澤 安彦) cond.

フィルハーモニア・ウインド・アンサンブル

この曲の魅力を存分に発揮した好演、出版社のデモ音源にも採用されていた。

テンポ設定の適切さ、コントラストの見事さに惹きつけられるし、Trumpet/Cornet ソロは

まさに ”華麗” そのもの。

ただこの演奏はLPのみでCD音源化されないままであり、このことがこの曲の認知を著しく低下させてきた要因といえよう。

 

 



【その他の所有音源】

木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ

山田 一雄cond. 東京吹奏楽団

 

 

-Epilogue-

永らくCD音源がない状態が続いていたが、漸く2つの音源が発売された経緯にある。

その間に、この曲は忘れ去られてしまったかのようだ。

今聴いても、全く古くない。コンパクトにまとめられて音楽としての魅力が詰まった名曲だと思う。一度聴いたら判ってもらえると思うのだが、如何だろうか。

この曲に昨今の吹奏楽オリジナル曲より強く惹きつけられる私は、年を取っただけなのだろうか-

そう思うと酷く淋しくなるばかりである。

 


    <Originally Issued on 2007.6.22. / Revised on 2012.12.14. / Further Revised on 2023.12.16.>




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