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トロンボナンザ

更新日:5月17日

Trombonanza       F.  D. コフィールド  Frank D. Cofield  (1913-2005 )


-Introduction-

スライド・アクションの面白さ、3または4声の同一楽器が醸すハーモニーならでは魅力、得意のセクションヴィブラートにグリッサンド…

トロンボーン・セクションをフィーチャーした楽曲はダンス・バンド時代とそのスタイルのジャズに多くあるが、実に魅力に溢れている。時にユーモラスに、時にこの上なくロマンチックに -オーソドックスでシンプルなアレンジやアドリブでも、それは充分な輝きを放ち楽しませてくれる。


■作曲者

作曲者フランク・コフィールドは、アメリカの出版社 Hal Leonard 専属の作編曲家として34年に亘り活躍した人物で、ハロルド・ワルタース(Harold L. Walters)に師事してアレンジを学び、吹奏楽界にも多くの作品を遺した。

トロンボーン・セクションをフィーチャーした「トロンボナンザ」(1963年) はその代表作だが、このほかにはトランペット・セクションをフィーチャーした「トランペット・オーレ」も人気が高く、また「序曲 ”ティアラ”」は1965年度の全日本吹奏楽コンクール課題曲に採用されている。


■楽曲概説

「トロンボナンザ」はトロンボーン・セクション (3パート) をフィーチャーした吹奏楽オリジナルの小品で、そのとても愛らしく親しみやすいラテンのリズムにのった天真爛漫な曲想は、トロンボーンという楽器の持つ” 陽気さ” ”ユーモラスさ” というものをストレートに伝えている。やや古さは感じられるものの、それを差し引いても余りある魅力を有する佳曲だ。ボナンザ=大金脈・大当たりということで 「トロンボーン大当たり!」「トロンボーン大フィーヴァー」「トロンボーン一等賞」といったニュアンスを持つ題名からして底抜け感がある。


私の「トロンボナンザ」との出会いは、1979年全日本吹奏楽コンクールで招待演奏を披露した春日部市立谷中小学校の演奏である。

「呪文と踊り」 (J. B. チャンス) とともに同年のコンクール全国大会Live盤LPに収録されたその演奏には、当時「小学生がここまでできるのか!」と唸らされたものだ。

バンドジャーナル誌に掲載された彼らのステージ写真には、ソンブレロ帽にラテンカラーの布を纏ったトロンボーン・セクションの姿があり、とても微笑ましかった。

 

 ※調べてみると、谷中小学校は2003年3月をもって閉校となったとのこと。あの素敵な小学生バンドは、

  今どんな活動をしているのかなと思っていたので、ちょっと淋しく、残念…。

■楽曲解説

賑やかなラテンパーカッションを伴った全合奏に続いて、早速Tromboneセクションのハーモニーが聴こえてきて、溌剌とした音楽が開始する。

 

チャチャチャ風のリズムと、ユーモラスなTromboneの旋律により、のっけからまさに陽気な世界を存分に味わうことができるのだ。

テンポは速過ぎぬ方が曲想に合いその魅力を発揮できるのだが、全編にわたり決してリズムが重くならないようにすることが肝要である。




やがて、ちょっとおどけた伴奏に変わってユーモラスな雰囲気を醸し出すと、いよいよTrombone の真骨頂へと入っていく。


鮮やかなグリッサンドに続き、豊かなハーモニーが得意のヴィブラートを伴って華やかに鳴り響き、Trombone セクションはいよいよ饒舌になっていくのだ。


楽曲から発散されるエネルギーは心地よく、最後まで賑やかな音楽は聴く者をハッピーな気分にさせてくれる。”古くさい” で片付けられることなく、どうか末永く愛される一曲であってほしいと願って已まない。

そしてぜひとも楽譜の再版、そして優れた新録音による再評価を!


■推奨音源

とても愛嬌のある、理屈抜きに楽しい曲なのでぜひ聴いてみていただきたい。音源は以下の通り。

加藤 正二cond. 東京ウインドアンサンブル

アナログEP盤。非常に古い録音だが、この曲のオーソドックスな姿を示す演奏。ギロをはじめとしたラテンパーカッションが存分に活躍する。








尚、この演奏は小学生向けの教材用CDにも収録されていた。 ( 小学校中学年用 小学校音楽科 教科書教材集 平成17~20年度用 )






イアン・ピープルcond. 英国アルブヘラ軍楽隊

快速な「トロンボナンザ」。

明快な録音で軽快な演奏の歯切れのよい音楽となっているが、楽曲の持つユーモラスさはやや後退している。







【その他の所有音源】

 ケンウッド・シンフォニック・ブラスアンサンブル(吹奏楽編成・指揮者なし)


■ラテン音楽+トロンボーン=トロンバンガ

ところで「トロンボナンザ」を聴くと、ラテン音楽とトロンボーンとの相性の良さが感じられるわけだが、「ラテン音楽におけるトロンボーン」と云えば ”トロンバンガ”(Trombanga)を忘れるわけにはいかないだろう。


✔トロンバンガとは

”トロンバンガ” は、1960年代に巻き起こったサルサ ブームの火付け役ともなったバンド形態で、ピアノ+バホ(Bajo / 低音弦つきのメキシカン・ギター)+ティンバレス+トロンボーン・セクション+ヴォーカルを基本とした編成。

敢えてサクソフォンはもちろんトランペットも入れておらず、鮮烈でパワフルなサウンドを持ち、音楽が隆々として非常にエネルギッシュなのが特徴だ。


 ※サルサ(出典・参考サイト:SALSA JAPAN !  http://www.salsa.org/salsahistory.html

   1959年のキューバ革命を経て、キューバとの国交を断絶したアメリカでは、プエルトリコ人が中心となって

   新たなラテン・サウンドが誕生することとなっていった。そしてラテンロックの元祖と称されるブーガルー

   や、キューバ風ジャムセッションであるデスガルガの流行を経て、過去に流行したキューバ音楽に、ジャズ・   ロック・ソウルなどを掛け合わせた音楽が隆盛に向かう。

   この音楽こそが「サルサ」( Salsa )であり、それを売り出した FANIA レーベルにより、そう名づけられた

   ものである。1970年代初頭に早くも頂点を迎えたこのサルサは“新たなアメリカ音楽”なのであり、これに

   合わせて男女2人がアドリブで踊るサルサ・ダンスでも大変有名である。


✔代表的な ”トロンバンガ” アルバム

トロンボーン奏者ならずとも、ラテン・ミュージックの好きな方なら心惹かれること間違いなしだと思うので、ぜひ以下の代表的なアルバムでトロンバンガを愉しまれては如何だろうか?

Eddie Palmieli - La Perfecta (1962)

トロンバンガの起源とされるアルバム。全編に亘りトロンボーンが重用されていることは事実だが、フルートを加えた亜チャランガ編成に止まっており、また半分以上はトランペット・セクションが参加。

但し音楽自体はもちろんゴキゲンで、トロンバンガらしいエネルギーの萌芽が存在する。





Mon Rivera - Que Gente Averigua(1963)

まさに”これぞトロンバンガ”の1枚で、トロンバンガの真の起源とも云われる。やや無骨だが大らかで野太く、パワフルなノリの音楽は、スケールの大きさを感じさせる。







Eddie Palmieli's La Perfecta Orchestra - Sugar Daddy

前掲したエディ・パルミエリによるベスト・アルバム。こちらはトロンバンガのコンセプトが徹底された楽曲も多く、その魅力が堪能できる。







Willie Colon & Ruben Blades - Siembla(1978)

ストリングスやエレキベース(チョッパー奏法も聴かれる)などを加え、より洗練されたトロンバンガ。さまざまな音楽と融合したラテン音楽たるサルサの一形態として、トロンバンガが進化したものだと云えよう。

第1曲 ”Plastico”からして、トロンボーンらしいキャッチーなフレーズがさまざまに現れ、心躍る。





-Epilogue-

私が学生指揮者を務めた大学3年時の定期演奏会を締めくくるアンコール2曲目が、この「トロンボナンザ」だった。

この年から常任指揮者にお迎えしたトロンボーンの名手・花坂義孝師匠に、どうしても私たちとその素敵なトロンボーンでも共演していただきたくて、お願いしたところ快諾して下さったのだ!

 

本番のステージ上では三文芝居-。

一緒に吹きましょうよ、と誘うトロンボーンのパートリーダーに「いやいや」と断る師匠。じゃあ、ジャンケンで僕が勝ったら…とパートリーダー。まんまと勝って大喜びのトロンボーンパート、「しょうがねえなー」と苦笑いの師匠。

舞台袖に ”用意してあった” 師匠の楽器を取りに行き、お渡しして私が棒を振り、演奏スタート !! 師匠のリードするトロンボーンパートの暗譜演奏というサプライズには、会場も大盛り上がり♪

 -こんな愉しい想い出を、「トロンボナンザ」 は私たちにくれたのである☆



     <Originally Issued on 2010.7.14. / Revised on 2022.7.17. / Further Revised on 2023.11.19.>





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