top of page
hassey-ikka8

ファンファーレ、コラールとフーガ

更新日:5月16日

Fanfare, Chorale and Fugue

C. ジョヴァンニーニ   Caesar Giovannini   (1925-2017 ) 作曲

W. ロビンソン   Wayne Robinson   (1914-2005 ) 編曲


-Introduction-

演奏されなくなる、耳にすることがなくなる- 吹奏楽曲でもそうした楽曲は非常に多い。

単なる流行という要素だけでなく、譜面の廃版や優れた演奏による音源が簡単に入手できないことなどがその要因となっているだろう。

この 「ファンファーレ、コラールとフーガ」 もその典型であろう。


■作曲者

作曲者シーザー・ジョヴァンニーニの作品は私の大好きな曲ばかりだ。

ジョヴァンニーニはピアニストとして音楽家のキャリアをスタートし後に作編曲家として活躍した人だが、そのフィールドは主としてポピュラー音楽の世界であった。

またNBCやABCといった放送局のオーケストラにピアニストとして参画したほか、映像作品関連の音楽をも手掛け、1950~1960年代を中心に多くの作品を世に送り出している。 


1957年のブラジリアン・ラプソディー (Brazilian Rhapsody) はジョヴァンニーニが送り出したポピュラー音楽の代表作であるが、ラテン・パーカッションのリズムにエキゾチックなピアノ・ソロが映えるA面バージョン、大きな編成となり弦楽器の濃密なアンサンブルにピアノの即興的なソロが絡むB面バージョンともに大変センスが良く、音楽的興味を甚くかきたてられる。



また1961年にリリースされたアルバム 「Caesar Plays」 は2台のピアノで ”ビギン・ザ・ビギン” ”レクオーナ” ”スターダスト” などのスタンダード・ナンバーを聴かせるもので、これもまたなかなか洒落たアレンジと演奏である。

 




そんなジョヴァンニーニが吹奏楽曲を書いたのは、おそらく第二次世界大戦中の兵役で2年に亘り海軍軍楽隊ワシントンバンドでピアニストを務めたという接点があったためだと思うが、その吹奏楽作品がポピュラー音楽に通じるモダンさを兼ね備えているのも納得である。そしてそれゆえに現在でも古臭さを感じさせぬ魅力を放っているのだ。


■楽曲概説

「ファンファーレ、コラールとフーガ」(1971年) はジョヴァンニーニの吹奏楽曲としては規模が大きく、また本格的な作品である。クラシカルにして厳粛さや敬虔さも感じさせる曲想だが、サウンドや随所にみられる響きの手触りにはモダンさが感じられ、また打楽器の効果的な使用も楽曲に華を添えている。

他の曲と同様、永年ジョヴァンニーニのパートナーとしてオーケストレーションを担当したウェイン・ロビンソン (Wayne Robinson) の手腕も大きいのではと推測される。

 

曲名の示すように3つの部分から成る接続曲という楽曲だが、各部分同士のコントラストを際立たせるというよりも、全体色は統一されている印象なのが逆におもしろい。ファンファーレは中間にオスティナートが特徴的な5/4拍子の展開部を挟み規模が大きいし、フーガはコラールに登場する楽句を発展・変奏し、コラールから移ろいゆくイメージを持つことからすれば、”ファンファーレ” ”コラール - フーガ”という大きく2つの部分から成ると捉えるべきかもしれない。

 

■楽曲解説

Trumpet+Tromboneによる荘厳なファンファーレにより開始。充実したドラム( Piccolo Snare+Regular Snare+Tenor Drum )のロールに導かれ、これに木管群を中心としたバンドのカウンターが呼応するのだが、その響きからして実にモダンで神秘的なムードが醸し出されており、強いインパクトを感じさせる。


一旦息を潜めて幻想的な木管アンサンブルを挟むが、ほどなくダイナミックなソロ Timpaniのロールでファンファーレが呼び戻される。

繰り返されたファンファーレは先行する Trumpet を Trombone が追いかける立体的なものとなっており、また一層華やかな音楽となっているのが素晴らしい。


ファンファーレが静まるとしなやかに下降していく木管楽器に続き、リズミックでやや煽情的な Allegro の経過句を経て、5/4拍子の展開部へ。4分音符で延々と奏される木管+低音楽器による呪文のようなオスティナートが実に印象的である。

それをバックにミュートを装着した Trumpet と Trombone がスピード感と緊張感のある楽句を次々と応酬していく。Horn のゲシュトップも効果的に絡ませ非常に鮮烈なのだが、決して興奮することのないクールな音楽となっており、何とも不思議な感覚を覚えてしまう。

 

オスティナートが重厚にアラルガンドして Tempo Primo、ここで晴れやかに光が差しファンファーレが力強く再現されて、最初の部分は終末を迎える。さらにテンポを緩めると厳かに Chime が鳴り、幅広く安寧な音楽のブリッジによって、祈りの色を深めたコラールへと入っていく。

祈禱を唱えるが如き導入部の楽句に続き、伸びやかにコラールが歌われる。


その清廉さはまさに心に沁みる味わいである。


この「コラール」の部分では、Fagotto が効果的に用いられており、この楽器の音色が醸し出す敬虔な印象に楽曲を包み込んでいる。

 

やがてコラール導入部の旋律を用いたフーガが始まる。

律動を示しながらも落ち着き払って始まった音楽が、徐々に徐々に泡立っていくさまが見ものである。


進行とともに音量だけでなく音楽のスケールを拡大し、重厚なサウンドで高揚していく。それは上へ上へと延びていく高い高い建物を見ているかのようだ。

一転、急に piu mosso となり木管の上向楽句とトリルに煽られ緊迫感とスピード感の充満したコーダに突入する。

このドライヴ感がたまらなく良い!


そしてそのドライヴ感そのままに、一気に歯切れ良く鮮烈なエンディングによって全曲を終う。ここでは盛り立てる打楽器群が大変印象的である。


■推奨音源

飯吉 靖彦 (汐澤 安彦) cond.

フィルハーモニア・ウインドアンサンブル

世界で唯一の商業録音であり、元々LPであったこの音源を収録したCDがこれしかないのである。楽曲のムードを適切に捉え、コントラストにも優れた好演であり、この曲を再評価するにも充分であろう。

ただ本作品はあまりに録音が少なく、また別の秀演も聴いてみたい楽曲ではある

 

 

 

 

-Epilogue-

代表作 「序曲変ロ長調」 「コラールとカプリチオ」の他、「吹奏楽のためのソナチナ」「アラ・バロッコ」「ジュビランス」「前奏曲ニ長調」「新時代への序曲」「銀のそり」「そは何処に」「ファンファーレと祝典の行進」「祝典序曲」「ジェントル・ジャーニー」「英雄的序曲」「ノースリッジ・ドライブ」「アメリカン・シナリオ」などの吹奏楽作品を提供しているジョヴァンニーニだが、録音のある楽曲はほんの僅かである。

ぜひ彼のユニークな魅力に溢れた楽曲を優れた演奏と録音で聴きたいものだ。

 

ジョヴァンニーニに限らず同様の状態にある吹奏楽曲の楽譜をオンデマンド出版で供給していただけないものか。それと同時にウェブ配信でも良いので、その優れた音源が購入できる状態が充実することを切に望む。

 

 

<Originally Issued on 2014.8.26. / Revised on 2023.1.9. / Further Revised on 2024.1.7.>

閲覧数:59回0件のコメント

Opmerkingen


bottom of page