The Music - Makers - Concert Overture for Band
A. リード Alfred Reed (1921-2005 )
-Introduction-
吹奏楽のコンサート -その始まりに皆さんはどのようなイメージをお持ちだろうか?
私にとって真っ先に思い浮かぶ 「オープナー」 は生命感と輝きに満ちた楽曲だ。何といっても、吹奏楽が本質的に持っている ”元気” というものが伝わってくる曲がいい。
そして指揮者としてもプレイヤーとしても、私の経験から言えば ”よく鳴る” 曲、サウンドが厚く伸びてくる曲がいい。渋い曲で始められないのは、多分に技量が足りず不安感が拭えないからなのだが、それを除いてもやはり客が入ってリハーサルの時とは音響も変容したホールでは、響きが試せる曲がいい。そして始まるや否や、演奏者も聴衆も一気に高揚する= ”ノれる” 曲がいい。豊かなサウンドで満ちた空間に、聴衆も演奏者もすぐさまどっぷりと浸かれたら、最高だと思うのだ!
■楽曲概説
アルフレッド・リードは叙上のイメージに合致した序曲や前奏曲をたくさん遺した作曲家である。
中でもこの「ミュージック・メーカーズ」 (1967年) はオープナーとして出色の出来映え。リードはほぼ終始快速に駆け抜けていく単一楽章のこの曲の中に、ダイナミックで輝かしいサウンドそして多彩な音色の変化を巧みに織り込んだ。
それでいてシンプルであるがゆえの爽やかさと快活さを一切失わせてはいない。
それこそがこの曲最大の魅力なのである。
リードは後年、規模や形式はもちろんのこと、音楽の喜びを主題とした点も同一の 「ヴィヴァ・ムシカ!」 ( Viva Musica ! / 1983年) という優れたオープナーも作曲しているが、私の好みはよりシンプルなこの「ミュージック・メーカーズ」の方である。
「この曲は2小節の導入に続くアレグロの単一楽章の形式を取っており、7つのモチーフによって組上げられているが、そのモチーフのうち1つだけが完全な旋律へと発展している。残りのモチーフは時に勇ましく、時に抒情的にと、絶え間なくその形・雰囲気・色彩を変えながら、輝かしいコーダへと高揚していく。
人生に求められる最も高邁なものに夢を馳せること、そしてその夢の達成に向けて精神を高めてくれる音楽の力- この曲は喜びをもってそれを謳い上げるものである。」 (リードのコメント)
■リードにインスピレーションを与えた「頌詩(Ode)」
作曲者リードはスコアに ”We are the music-makers” の一節で始まるアーサー・オショーネシー(Arthur William Edgar O'Shaughnessy 1844-1881)の「頌詩 (Ode)」 冒頭部分を掲げている。
この「ミュージック・メーカーズ」という楽曲は、この詩にインスピレーションを得て作曲されたものなのである。
オショーネシーは大英帝国として繁栄を極めたヴィクトリア朝のロンドンに生まれ、大英博物館で翻訳の仕事に就きながら活躍したイギリスの詩人である。
1874年に著した詩集「音楽と月光(Music and Moonlight)」に収録された「頌詩」はその代表作であり、かのエドワード・エルガーも本作を題材とした ”The Music Makers, op.69” という合唱・管弦楽伴奏つきの歌曲を作曲するなど、多方面に影響を与えた名作として知られている。
【参考・出典】PoemHunter .com : https://www.poemhunter.com/arthur-william-edgar-o-shaughnessy/biography/
1989年のアメリカ映画 「いまを生きる」※ のノベライズ小説(ナンシー・クラインバウム Nancy H. Kleinbaum による) にもこの詩が登場、強い印象を与えている。
同小説は白石 朗によって翻訳されており、以下に原文と白石訳による「頌詩」前半部分を掲げる。
「頌詩」 は全編に亘り美しい韻を踏み、とても音楽的なものとなっている。
内容もリードが言及したように音楽の ”喜び”とその ”力” を信じ讃えるものであり、音楽に携わる者・音楽を愛する者に広く共感を抱かせるだろう。
※映画「いまを生きる」(原題 Dead Poets Society)
舞台は1959年のアメリカ。抑圧された日々を送る全寮制名門高校の男子生徒たちの前に、型破りな国語教師が赴任してきたことから物語は始まる。
彼に ”今を生きる” ことの大切さを気づかされた生徒たちは、嘗てその国語教師が結成した詩の朗読会を復活させ…。青春の夢と挫折、生と死を描いて真の ”生きる意味” を問う。ロビン・ウイリアムズ主演。
尚、この映画自体には 「頌詩」 は登場しない。現れるのはノベライズ小説(左画像)の中のみである。内容的にはノベライズ小説の方が深みがあり、ストーリーの落とす陰影も深い。映画はこれを抑制しており、ロビン・ウイリアムズの表情豊かな演技のおかげもあって、ストーリーの持つ ”闇” にも救いが生じている印象。
■楽曲解説
Broadly で奏されるTrumpet + Tromboneの4つの二分音符に続いてAllegro brillanteに転じ、決然としたTimpani の打込みに導かれて文字通り輝かしい音楽がほとばしる-
生命感と眩い光に満ちて、あっという間に聴くものを高揚させる、「ミュージック・メーカーズ」の鮮やかなスタートである。この冒頭からして、なのだが打楽器群の使い方が抜群なのもこの曲の特筆すべき魅力である。
冒頭と終結部の Timpani ソロの存在感の大きさ、スナッピーの on と off とを巧みに使い分ける Snare Drum、 クライマックスへ向かいフルバンドのテュッティと応酬していくCymbal… 全曲を通じ無双な活躍ぶりであり、また多彩なニュアンスも要求されているので表現のしがいも満載である。打楽器奏者にとっては実に愉しい曲であろう。
序奏から一旦静まって、ギャロップ風の軽快な伴奏とともに Clarinet が歌いだす旋律は、思わず頬が緩む愛らしさだ。
そしてこれに連なる Oboe + Flute(+ E♭Clarinet or Muted Cornet ) によるカウンターの瑞々しさがたまらない!
これがこの曲の白眉と断言したい。ふくよかだが爽快な楽句が ”これしかない” という音色配置で奏されており、実に幸福な気分にさせてくれるのだ。
旋律が直線的なものに変わると、ここからはミュートをつけた金管群とSax、スナッピーオフの Snare Drum など、一層多彩な音色の変化とダイナミクスの変化が応酬され、耳を楽しませる。
要所で響きわたる重厚なリード・サウンドが、楽曲に迫力と確りした重心を与えていることも見逃せない。
さらには全合奏によるモチーフと Cymbal とのリズミックでダイナミックな掛合いに続いて、Horn がベル・アップし高らかに凱歌を歌うのだ。
終結部では冒頭を回想させる濃厚な Broadly を僅かに挟むが、すぐに一層勢いを増したAllegro molto となって、ベースラインと Timpani ソロの奏でる快活なリズム
に導かれ、ハッピーで鮮烈なエンディングを形成し曲を締めくくる。
■推奨音源
アルフレッド・リードcond.
東京佼成ウインドオーケストラ
リードの来日記念盤でこの「ミュージック・メーカーズ」という楽曲を世に知らしめた自作自演アルバム。
抜群の推進力とともにまさに ”色とりどり” の多彩さと鮮やかなコントラストを描き、輝かしいサウンドで楽曲の魅力を存分に発揮している。
【その他の所有音源】
アルフレッド・リードcond. 洗足学園大学シンフォニックウインドオーケストラ
ロジャー・G・スイフトcond. コールドストリーム・ガーズ軍楽隊
-Epilogue-
吹き抜けた一陣の風の如く一気に駆け抜け、音楽の喜びを謳い上げるこの曲の聴後感はどこまでも爽やか。
この愛すべき素敵な作品に込められたリードの共感= ”音楽の夢” ”音楽の力” を信じる想いを、私もずっと持ち続けていたいと思う。
<Originally Issued on 2012.7.12. / Revised on 2023.2.21. / Further Revised on 2024.1.5.>
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