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ライド

更新日:5月17日

Ride     S.R.ヘイゾ Samuel R. Hazo  (1966- )



-Introduction-

鮮烈さと高いスピード感、ジャズの要素も取り入れた現代感覚-。僅か3分強の作品だが、文字通り息もつかせぬカッコ良さ!あたかも華々しいレーザー・ショウを見ているかのようである。演奏会のオープナーとして、吹奏楽にまた新しい ”色” を与えた作品として特筆できよう。


■楽曲概説

「ライド」 (2002年) はアメリカの作曲家/指揮者ジャック・スタンプ(Jack Stamp)に捧げられている。

作曲者ヘイゾのスタンプに対する感謝が込められた作品であるとともに、作曲のインスピレーションそのものも、スタンプからもたらされたものなのである。

作曲者サミュエル・R・ヘイゾは映像・舞台音楽の世界でも活躍してきたキャリアの持ち主で、ポピュラーミュージックの要素も取り込んだ現代的な作風がその特徴となっている。

スタンプはそんなヘイゾの才能と作品を高く評価し、2001年頃から吹奏楽界にヘイゾの作品を積極的に紹介していった。しかもスタンプはヘイゾから一切のお礼を (菓子折りすらも) 受け取らず、「君の音楽を僕らに届け続けてくれれば、それだけでいいんだよ」とヘイゾを励まし続けたという。

 

「”ライド” はジャック・スタンプが私にしてくれた全てのこと- 即ち作曲に関することはもちろん、それにとどまらないさまざまなことに心からのアドバイスをしてくれた、そうしたゆるぎない友情に感謝を表した作品である。」

                                            (ヘイゾのコメント)


作曲者によるプログラム・ノートによれば、直接の作曲にあたってはインディアナ州の田舎道を爽快にかっ飛ばすドライブと、その高速の車窓から見える美しい風景の残像がこの曲の表すところとなっている。(冒頭画像:作曲者HPに所載されていたイメージ)

この日、ヘイゾはスタンプの尽力によりマーク・キャンプハウスなど4人の高名な作曲家 とともに、インディアナ大学での作曲家フォーラムに参加していた。フォーラムの初日日程終了後、スタンプはこの作曲家たちとともにヘイゾを自宅のディナーに招待したのである。錚々たるメンバーの中で充実した時間を過ごすヘイゾの気分は、否が応にも高揚したことだろう。

 ※Joseph Wilcox Jenkins, Mark Camphouse, Bruce Yurko, Aldo Forte

 

そして、件のドライブはインディアナ大学からスタンプの居宅 (=ガボルクナ・ハウス) に向かう間のこと。スタンプの後について車を走らせたヘイゾだが…

何とそれは限界のトップスピード!


スタンプの驚くべき 「飛ばし屋」(lead foot) ぶりと、つくづく感じられるスタンプという人物の器の大きさ-

さまざまなヘイゾの思いと前述のスピード感、そしてすっ飛んでいく美しい風景とがあいまって、彼を更なる精神的高揚に導き、鮮やかな「ライド」という楽曲は生み出されたようだ。


■楽曲解説

作曲者の念頭にあったイメージからしても「ライド」にはまずもって失速することのないスピード感が要求される。

(ヘイゾはテンポ ♩=167を確実に守るよう注記している。)


音色を含めて高いスピードをキープする必要がある上、コントラストを鮮やかに演出することや音域の幅広さからしても、短い曲ながら難易度はなかなかのものと言えよう。


そして、そもそも

”鳴らない”バンドではこの曲の魅力を発揮させるには至るまい。



始まったその瞬間からまさにエンジン全開で疾駆するのであり、スピードと緊迫感に満ちたオープニングである。


短いその序奏に続き Drum Set のような Percussion の伴奏に乗って、木管楽器に変拍子の旋律が現れる。

如何に頻繁に拍子が変わっても、根底にスピード感のあるビートを感じることができよう。

 

一方、金管群は実に鮮烈!Trumpet と対峙する低音群の中でも、特に Bass Trombone の音色が冴える。

33小節の Low E♭あたりは、まさに ”ぶっ放し” てイイところだろう。

 

また、Timpani や Piccolo Snare を素手で叩いて Conga や Bongo のような効果を狙っているのも面白い。

後半の転調後にもこの装飾音符のついたリズムの繰返しが再現されるのだが、これはあたかも作曲者ヘイゾの高まる胸の鼓動のようではないか。こうしたところにも、徐々に拡大する高揚感が表現されている。

 

アドリブ的な Alto Sax. のソロも織り込まれ、音楽は自在にその表情を変え多彩なものとなっていく。


しかし、快速さと手に汗握る緊張、密やかな興奮といったものは決して失うことなく、最後まで一点を目指して疾走していく。-それこそがこの楽曲の最大の魅力なのである。


■推奨音源

ジャック・スタンプcond. IUP ウインド・アンサンブル

本作を献呈されたスタンプによる録音。

さすがは作曲者ヘイゾの最大の理解者といったところで見事な出来映えである。








【その他の所有音源】

ユージン・コーポロンcond. 昭和ウインドシンフォニー (Live)

ドン・ウィルコックスcond. 武蔵野音大ウインド・アンサンブル

出版社Boosey & Hawkes デモ音源 (詳細不詳)

  

-Epilogue-

新しい感覚とテイストをもった音楽を生み出すことは大変難しいが、いつの時代にあってもそれは重要で極めて意味のあること。

若き才能の新たなチャレンジと、それを認め世に出すことの価値を、音楽を愛し楽しむ者全てが確りと認識しなければならないのだと思う。


 

<Originally Issued on 2008.10.25. / Revised on 2023.11.13.>

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