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  • hassey-ikka8

ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレイドスコープ

更新日:4 日前

La forme de chaque amour change comme le Kaleidoscope 

                   天野 正道(Masamicz Amano 1957-)


-Introduction-

「人類愛、親子の愛、男女の愛、屈折した愛、普遍的な愛、などなど「愛」には色々な形があるのでしょう。その、それぞれの愛のかたちが万華鏡のごとく変化する事もあるのかもしれません。この曲はそういった「愛の形」をテーマにして書いた曲です。曲の雰囲気も万華鏡のように変化していく様に構成されています。」            (作曲者コメントより)

 

私自身、発表されてまだ間もない2004年に本作品の演奏に取り組んだ。”万華鏡のよう” と作曲者自身がコメントしたこの曲だが、魅力あふれる旋律や楽句・サウンドの宝庫であり、またそれが鏤められたさまはまさに万華鏡の如し。当時から既に私の心を捉えていたこの曲であるが、後年その魅力をより一層深く刻みつけられる演奏と出会う。

それは2015年全日本吹奏楽コンクールでの米田 真一cond.玉名女子高校の演奏である。

前年「森の贈り物」(酒井 格)の演奏を聴きこの団体の虜となっていた私は、翌年のこの演奏で更に一層魅了されることとなった。

美しい音色、高いレベルにあるテクニック、豊潤でありそれだけでも感動的と云えるサウンド、そしてメリハリの効いたテンポ設定と鮮やかなコントラスト-このバンドはもう本当に素晴らしい。しかし、このバンドの最大の魅力は豊かな”歌心”だ。ソロプレイヤーだけではない、バンド全体が実によく歌う。

そしてこの演奏などは、打楽器セクションまでもが(実はこれが打楽器セクションのあるべき姿ではあるのだが、接することは稀)バンドに壮大な歌を歌わせるために見事に機能しているのであって、まさに鳥肌の立つ感動である。

”歌え、思う存分歌え”という内面の叫びが聞こえてくるような、最高度の情緒に溢れた演奏、”歌”の素晴らしさ、尊さに浸らせてくれる名演。そしてこの「ラ・フォルム-」が如何に多くの素敵な歌を内包した音楽であるか感じ入らせてくれる。

終盤のau Mouvetではたっぷりと歌い上げる主旋律と対旋律、更に伴奏リズムといった全てが極めて立体的に絡み合って感動的なクライマックスを築いており、まさに圧巻だ。


■作曲者と作品概括

作曲者「天野 正道」の名に初めて接したのは中学生時代、秋田南高校の全日本吹奏楽コンク-ル自由曲のアレンジャーとしてである。「ペトルーシュカ」「春の祭典」、そして現代の邦人作品…。私の知らない音楽の世界を次々と教えてくれた。

前衛的なもの、日本的なもの、映画音楽的なもの、フランス的なものとその作風は多岐に亘り、ポップス曲のアレンジにも及んで文字通り変幻自在。今や、天野作品の吹奏楽レパートリーに占めるウエイトは極めて大きいものがある。



この「ラ・フォルム-」はフランス語の長い題名となっているが、「愛は万華鏡のように」といった ”邦題” を作曲者は望んでいない。「それぞれの愛のかたちは万華鏡の如く移り変わる」というスコアにも記された題名の意味は理解するとして、モーリス・ラヴェルやジャック・イベールといったフランス近代の作曲家たちへの強いオマージュも感じさせる本作品には、やはりフランス語表題が似つかわしいのだ。


ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレイドスコープが作曲されたのは2003年。”カレイドスコープ” という金管五重奏曲と ”ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール” というクラリネット八重奏曲とを合体させるというアイディアがその発端という。

 2016年には本作品の委嘱者から新たな ”カスタマイズ” を求められ、それが ”ヴァージョン・リミックス・パァ・ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレイドスコープ” という再創造作品を生んだ。

こちらは冒頭からより激しい熱情と強靭さを感じさせる音楽であり、また(フランスというより)ロシア的な印象を受けるものとなっている。


■楽曲解説

全体を見ると、序奏-緩舒パートⅠ-行進曲風-緩舒パートⅡ-変拍子バッカナール風-緩舒再現部-行進曲風再現部-コーダという構成で、テンポやダイナミクス・曲想が次々と移りゆく極めて多彩な楽曲となっている。


勇壮な行進曲風や、快速でエキサイティングな曲想も織り込んで鮮烈なコントラストを描く美点もさることながら、この曲はソロイスティックな楽句を随所に配した美しく切なく思いっきりロマンティックな緩舒部分の魅力がとにかく圧倒的である。



「愛」という大きなテーマを表現するに相応しい内容を備えた傑作と云って良いだろう。

 

豊かなサウンドを持ち、人肌の温かみを感じる美しくファンタジックな序奏部は、何故かミステリアスでもある。そして緩やかな高揚が弾けたそこに妖精が現れたかの如き玲瓏なる Fluteソロ-可憐なその美しさに思わず息を呑まずにいられない。

その瑞々しさに茫然としていると、更に Oboe がロマンティックを極めた旋律を提示するのである。それは透明感のある美しさを湛えつつ、色っぽさを隠さずにはいない。

厚みを増しふくよかに繰返し歌われたこの最初の愛の旋律に Saxophone のアンサンブルが続く。

この楽器たちの持つ美しい饒舌が遺憾なく発揮されるさまが聴きものであり、ラヴェルの名作「弦楽四重奏曲」を彷彿とさせる世界が拡がっていくのだ。その魅惑はより幻想的なムードを湛えつつ鎮まりゆく。


そして突如、次々と点灯するランプの如き高音楽器のベルトーンに呼び覚まされ、曲は勇壮な行進曲の楽想へと転じる。ファンファーレ風の金管楽器の華々しい楽句に始まり、誇り高く堂々たる足取りで歩みを進める音楽には、聴く者が気圧される勢いを放つ。

これが静まると、音楽はより幻想的なムードへと深みに降りていく。

新たな愛の旋律はそれまでにも増して艶っぽいものとなり、

それに続く旋律もまた実に蠱惑的な美しさに溢れ、いよいよ陶酔感を充満させるのである。

やがて Harp の調べとともに現れる旋律の深遠な美しさはどうだろう。叶わぬ愛のかきむしるような、しかし静かな切なさを感じさせずにいないのではないだろうか。

(後に Harp の伴奏により Fagotto ソロでこれが繰返されたとき、その印象は一層強まることとなる。)

更に木管楽器の繊細な美しさに満ちた、或いは遠いノスタルジーを想起させて已まないソロやソリが繰り返され、

より優美さを増した、しなやかな Saxophone クインテットも曲を彩っていく。

この一連の夢幻的な曲想と、それゆえに儚い美しさは本作品の示す最大の魅力であろう。


やがて俄かに音楽は不安げな表情を示し、打楽器も加わった煽情的なブリッジを経て快速で変拍子のバッカナールへと突入する。

ここでは特徴的なリズムのみならず、生命感に溢れた旋律が際立って印象的である。

その中で諧謔的な低音の旋律も現れ、これが楽曲に一層の変化を生んでいる。

二度繰り返されたこのバッカナールは急ブレーキの如き減速を経て、遂に全曲最大のクライマックスを迎える。


そこでは文字通り「愛」を象徴する壮大で情熱的な歌が謳い上げられている。

各声部、全セクションが一体となって創り上げられたその世界はまるで洪水のように聴くものをたっぷりとした暖かいサウンドともに攫っていくだろう。ここではその心地良さに身を任せられる豊かな音が欲しい!


運命的なHorn(+Flugelhorn, T.Sax, A.Cl.)の楽句に導かれて行進曲の楽想が再現され、その緩まっていくテンポとともに華々しく鐘が鳴り響いて重厚かつ濃厚なコーダへ突入、最後はCのコードがオルガン・サウンドで轟きわたり大団円を迎える。


■推奨音源

既に推奨した玉名女子高を含め、全日本吹奏楽コンクール(2023年度終了時点)では延べ8団体※ によって採り上げられているなど人気曲であるが、ノーカット全曲版の音源はごく限られる。

 ※「ヴァージョン・リミックス・パァ・ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレ

  イドスコープ」を含む

佐川 聖二cond. 創価グロリア吹奏楽団(Live)

委嘱者による2003年当時の全曲録音。

Live録音であり譜面を完璧に音にし切ったとまでは言えないが好演である。

特に最後のコードのオルガン・サウンドは洵に見事。このレベルに達するのはなかなかできないこと。





天野 正道cond. 土気シビックウインドオーケストラ

2016年の録音で、”ヴァージョン・リミックス・パァ・ラ・フォルム・ドゥ・シャク・アムール・ションジュ・コム・ル・カレイドスコープ”も同時収録。

作曲者自身の指揮によるものであり、その意図を端的に伝える引き締まった好演。

Flute のソロは殊の外美しい。




諸々事情はあるだろうが、そろそろこの素敵な楽曲の、プロフェッショナルな楽団による名演の登場を期待したく思う。


-Epilogue-

”愛には色々な形があり、そのそれぞれの愛のかたちが万華鏡のごとく変わる”

- 本作品に寄せた作曲者のこの言葉が、美しいこの楽曲とともに私の心に幾度も去来する。その意味をしみじみと噛み締める齢に、私もなったのだ。

 

 

 <Originally Issued on 2006.12.13. / Overall Revised on 2018.1.10. / Further Revised on 2023.11.5>

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