top of page

「リボンの騎士」オープニングテーマ

“ Princess Knight ” Main Theme 冨田 勲  Isao Tomita  (1932-2016 )


-Introduction-

これほどセンスのある楽曲、アニメの主題曲の中で…ではなくオールジャンルでもなかなかお目にかかれない!驚愕というべきレベルである。

 

■楽曲概説

漫画の神様=手塚治虫(1928-1989)の代表作「リボンの騎士」のアニメ版(1967年4月ー1968年4月放送)オープニングに使用された楽曲である。即ち半世紀前の子供番組のテーマ音楽なのだが、この作品の出来映えはあまりにも高レベル!

 

日本人を超えた、というよりもう独特の突き抜けてハイセンスな楽曲である。

魅力的な ”ツンデレ” メロディーはもちろん、極めてオシャレなリズム、マリンバの音色が効いたサウンドなどなど、今でも色褪せることなく斬新で、聴く者を夢中にさせる要素に溢れている。


それもそのはず、作曲したのはあの ”世界のトミタ” なのだ!





■作曲者

冨田 勲は作曲家としてNHK大河ドラマの音楽や「きょうの料理」「新日本紀行」のテーマ音楽、「ジャングル大帝」「どろろ」のテーマなど、映像関連を中心にポピュラーソングや童謡に至るまで幅広い作品を手掛けていたが、ほどなく1970年代以降はシンセサイザー音楽の先駆者として活躍の場を世界へと広げた。

 

彼のシンセサイザーによる最初の作品集(LP)「月の光-ドビュッシーによるメルヘンの世界」(1974年)は米国ビルボード誌クラシックチャート第1位を獲得し、グラミー賞4部門にノミネートされたのである。その後「展覧会の絵」「惑星」もビルボード誌クラシックチャート第1位となり ”トミタ” の名はまさに世界的なものとなった。

そんな冨田 勲の手腕は、「リボンの騎士」の世界観と見事なほどに合致した主題曲を生み出している。華麗にしてファンタジック、メルヘンチックでありながら実に上品で美意識の高い音楽であり、その中でくるくると変化する曲想は主人公サファイアのキャラクターを示唆するようでもある。 ■手塚治虫の傑作「リボンの騎士」

「リボンの騎士」 は1963年から1966年に講談社の少女漫画誌「なかよし」に連載された作品 で、手塚治虫が生んだ少女漫画の金字塔にして同ジャンルにおけるストーリー漫画の先駆けと評される傑作である。

  ※実はこれより10年遡る「少女クラブ」連載版(1953-1956)という「リボンの騎士」の原典があるが、

   アニメ化にあたっては「なかよし」版を中心とした原作エピソードを織り交ぜ、オリジナルの物語も加

   えられている。


✔作品概要

天使チンクの悪戯により、男と女両方の心を持って生まれてきてしまったシルバーランドの王女サファイア。男しか王になれないという掟のあるシルバーランドでは、悪評高いジュラルミン大公が次の世継に自分の息子を据えようとしていた。ジュラルミン大公のシルバーランド支配を逃れるため、サファイアは表向きは王女でなく王子として育てられることとなったのである。かくしてサファイアは15才となり、極めて美麗で優しい王女にして、正義感が強く勇猛果敢な剣の達人たる王子へと成長していた。

 

謝肉祭の夜、亜麻色の髪の乙女に変装したサファイアは舞踏会で隣国ゴールドランドのフランツ王子と踊り、二人は瞬時に強く惹かれあう。

このサファイアとフランツの恋がストーリーの中心であり、王位を狙いサファイアを亡き者にしようとするジュラルミン大公一派の企みが迫ったり、フランツと娘を結婚させゴールドランドを我物にしようと狙う魔女、サファイアに嫉妬しフランツの心を得ようとする美神ビーナスなどが登場して、サファイアとフランツの運命を翻弄する。

 

しかしサファイアから男の心を抜き取り完全な女の子に戻そうと奮闘する天使チンク、忠節な家臣たちや漢気溢れる海賊ブラッド、魔女の娘ヘケートやビーナスの召使いエロース、女剣士フェリーベら善良なる者たちの文字通り献身的な支援を得て、波瀾万丈の展開の末にサファイアとフランツの恋は大団円へと向かう。


✔「リボンの騎士」の魅力

原作「リボンの騎士」にはさまざまな魅力が散りばめられているが、それはやはりサファイア姫の魅力に尽きると云って良いのではないだろうか。

巧みな設定のもとにストーリーが展開するにつれて、誰もがサファイアの幸福を願い、彼女を守りたいという思いに駆られ周りのキャラクターへ感情移入してしまう。鮮やかに剣を操る気丈なサファイアは、愛するフランツの前ではこの上なく愛らしく恥じらいを見せる-そのギャップは彼女を一層魅力的に映すのだ。

本作は所謂 ”少女漫画” なわけだが、サファイアは男の保護本能をかくも著しくくすぐるのであり、さすれば男性にとっても魅力的な作品であることは疑いないと思う。サファイアの外見の美しさだけでない人間としての、また女の子としてのさまざまな美点がエピソードのここかしこから滲み出しているのである。

(そんな女の子が次々に襲い掛かる苦難と健気に戦っていたら ”守ってあげたい” じゃあないか!)


お相手のフランツ王子もサファイアの魅力をトータルで捉えている。ビーナスを見て「ゾッとするほど美しい」と感じながらも、如何に言い寄られたって全くなびかない。挙句この美の女神に対して「サファイアはあなたの百倍も素晴らしい !!」とまで言い放つのである。この辺りも当時の少女たちには堪らなかっただろうと想像する。

(逆に男の立場からしても、そこまで言い切れる女性と出会えるなんてことはとてつもないロマンなんだけど…。)

そして私にとっても-

スラリと手足の伸びた華奢な美少女…

子供心にも惹かれたサファイアは、外見的にもずーっと「どストライク♡」だったのだ。


  ※原作「リボンの騎士」の詳細については下掲の「詳説」を参照されたい


■楽曲解説

アニメ版「リボンの騎士」のオープニングテーマには3つのバージョンが存在しているが、本稿で採り上げるのは「インストゥルメンタル版」 である。

 

  ※放送初期のみにこのバージョンが流れていたとのことであるが、私には歌詞が入っているバージョンの記

   憶がなかった。(エンディングの「リボンのマーチ」には歌詞がある、という認識。)      

   しかし実は他に歌 (詞) 入りの「王子版」「王女版」の2バージョンがあることを大人になってから知った。

   歌っているのは「キューティーハニー」でもおなじみの前川 陽子(当時彼女はまだ高校生)。

   「王子版」は”ボク”で歌詞が始まり、「王女版」は”あたし”で始まる。より決定的な違いは「王子版」は「イ

   ンストゥルメンタル版」と同じシャッフル(但し「王子版」は随所に女声コーラス&スキャットを入れる

   という凝りよう!)なのだが、「王女版」は8ビートのアレンジで、ドラムソロなどもある。 

   さらに「インストゥルメンタル版」の中にも幾つかのバージョンがあるようで、オーケストレーションが

   微妙に違っている。現在入手可能な市販音源とは違う「インストゥルメンタル版」があり、私はネット上

   で偶然これを手に入れた。

   数あるバージョンの中で最もシンフォニックかつ美的であり、本稿はこのバージョン(後述の通り1978年

   発売のLPに収録されたものの「カラオケ」版)に基いて記述している。

   従って、過去にテレビでご覧になった皆さんのイメージとはおそらく異なっていると思う。

   ( 現在Youtubeなどで視聴可能なのも当時のテレビバージョンだからである。 ) 

   歌 (詞) 入りののヴァージョンは、当時の時代を感じさせるものではあるのだが、これも悪くない。

   私などはおきゃんでスィートに歌われる

   「 ボクのみる夢は ひ・み・つだよ♪  誰にも言わない ひ・み・つだよ♪ 」

   あたりに、やっぱりグッと来てしまう…!


華やかに打ち鳴らされる Chime の音色が印象的な6/8拍子の序章部に続き、Trumpet の壮麗なファンファーレ。

最後の Trumpet のハイトーンともに、ラッパのベルの中から天使チンクが華やかに飛び出してお城の中へ降りていくシーンに転じる。


おもちゃの山に落っこちたチンクは(本編に登場する)ぶなの木の笛を吹きながらおもちゃたちと行進を始めるのだが、その楽しげな様子が愛らしい Piccolo ソロで描かれる。…ここでカウンターに入るロータムのなんと気の利いていること!

 

シャッフルのリズムにのったピアノの印象的なイントロが奏でられ、主部のメロディが流れ出す。シンコペーションを効かせたこのメロディこそが、最高に魅力的!

おそろしくシャレているし、とても現代的でかつ上品、可愛らしくて透明で-

何と奥行きの深い旋律だろうか!

Violin と Glockenspiel の奏するこの旋律のバックにはファンタジックな Marimba のトレモロ、カウンターは美しく軽やかな Piano …音色配置も抜群である。

 

間奏部分はブラスの奏する快活なポップスマーチと、Piccolo ソロの小洒落たシャッフルとが2小節ごとに応答する。


Drums が最高にカッコよく、男性と女性の2つの人格を行き来するサファイアを表すかの如く、この2つのリズムを行き来する小粋さに心躍らさずにはいられない。

 

終盤に向かい息の長い旋律が甘美で艶やかに奏され、充分な高揚感を経て、再び Chime の鳴り響く華やかなエンディングとなって締めくくられる。

 

リピートを含むフル・バージョンでも僅か 2' 50" ほどの小曲だが、この完成度の高さ、強く心に灼きつけられる感銘は何だろうか。旋律やフレーズが頭から離れず、どうしてももう一度聴きたい、となってしまう。

こういうものこそが、名曲である!


■推奨音源

1978年に日本コロムビアから発売されたLP (CS-7083) をお奨めする。

インストゥルメンタル版:

コロムビア・オーケストラ

歌入り(王子バージョン)版:

前川陽子&ルナ・ハルモニコ

とクレジットされているが、アレンジそして演奏のクオリティが極めて高い!

テレビ放映バージョン、およびそれを収録したCD「懐かしのミュージッククリップ29 リボンの騎士 」しかお聴きになっていない方には、ぜひこのLP収録の演奏を一度聴いていただき、この曲の真価を堪能してほしいと願わずにはいられない。

  ※私は偶然ネット上でこのLPの歌入り音源「カラオケ」バージョンを手に入れ、それを愛聴している。

   この音源を何とか広く世に出してもらえないものか…


-Epilogue-

この素敵な曲と、文字通り「再会」して改めて惚れ込んだ結果、私は原作の「リボンの騎士」にもどハマリすることになってしまった!

-それは、とてつもなくラッキーでハッピーなことだったのだ。素晴らしい出会いだった。

 

同じように、本稿が読まれた方とこの名作楽曲とが出会うきっかけになってくれたら、そんな幸せなことはない。



     <Originally Issued on 2016.3.16. / Revised on 2016.7.12. / Further Revised on 2023.12.30.>

 

閲覧数:55回0件のコメント

Comments


bottom of page