Symphonic Triptych Ⅰ. Fanfare – Scherzo Ⅱ. Soliloquy Ⅲ. March - Fanfare
J. カーナウ James Curnow (1943- )
-Introduction-
クラシック音楽だってその当時は流行音楽-。そう思うと何の不思議もないのだが、吹奏楽曲の流行り廃りも相当激しい…最近つくづくそう感じる。
■楽曲概説および作曲者
「オーストラリア民謡変奏曲」「ロッキンヴァー」「ローン・スター・セレブレーション」など数多くの吹奏楽オリジナル曲や、 「ザ・カウボーイズ」をはじめとしたジョン・ウイリアムズ作品の吹奏楽編曲で知られるジェイムズ・カーナウだが、この交響的三章 (1976年) はカーナウの名を最初に本邦に知らしめた作品であり、1977年のVolkwein作曲賞を受賞している。
カーナウの作品はABAオストワルド作曲賞も1980年「ミュタンザ」 1984年「ユーフォニアムと吹奏楽のための交響的変奏曲」の2度受賞するなど高く評価されており、良い旋律と輝かしく鳴るサウンドを持ち、コントラストが鮮やか。その魅力は、「交響的三章」でも存分に発揮されている。
難度の割に演奏効果が高く、随所に聴かせどころのある作品であり、今でもそして末永くもっと演奏されてよいはずである。現在忘れ去られたかのような状態となっているのは如何にも惜しい。
■楽曲解説
交響的三章の構成は中間に緩徐楽章ソロリクィを置き、それとは性格の異なる楽章でこれを挟み、対比を際立たせている。
Ⅰ. ファンファーレ - スケルツォ
Andante maestoso (♩=66) にて滔々とF音のペダルノートが響き続ける中、Trumpet +Trombone の厳かなファンファーレがこの曲の幕開けを告げる。
これが木管群の密やかなコラールに引き継がれた後、再びのファンファーレへと続き、コラールが今度は全合奏で雄大に奏される。
やや鎮まってTrumpet と Tromboneの応答を挟むや、突如倍テンポのスケルツォ Allegro con Spirito (♩=132)へと転ずる -その緊迫が鮮烈である。
スケルツォは Horn+Alto Sax. のオスティナートを従え、厳めしいイメージを失わぬまま緊張とスピードが迸る音楽となり、高揚して一層エキサイティングな音風景を描いていく。
スイッチ鮮やかにコラールとスケルツォが交互に奏されていくのだが、スケルツォでは心の ”烈しい泡立ち” を表現が求められよう。
コラールによる最後の昂りが弾けてスケルツォのオスティナートが再現され興奮のまま第1章を閉じる。
Ⅱ. ソリロクィ
「ひとりごと」「独白」を意味するソロリクィはその名の通り、独奏楽器による歌から成る音楽である。
ヴィンセント・パーシケッティ「嬉遊曲」の Trumpet ソロ、ジェームズ・バーンズ「秋のひとりごと」の Oboe ソロ…吹奏楽にもソロリクィの名作があり実に味のあるソロを聴くことができるが、ここでも Oboe を中心に Alto Sax.、Horn、Trumpetと哀調に満ちた旋律がソロによって歌い継がれていくのである。
Adagio con Espressivo (♩=52)、Chimeに始まる打楽器の伴奏に導かれOboeが歌いだす。
どこか満たされぬ淋しい感情も内包するように聴こえるこの旋律はFlute に受け継がれるが、ブリッジとなるAlto Sax のソロが印象的である。
やがて Horn ソロの応答から更に密やかな音楽となるが、突如響き渡る Cymbal によって覚醒しあっという間に劇的なクライマックスへと昂っていく。
Oboe ソロが冷めやらぬ興奮を鎮め、Horn、 Trumpet と抒情を湛えた楽句が続いて冒頭の Oboe ソロの再現へと導く。
-醒めやらぬ夢の如き余韻をもってこの抒情的な音楽を終う。
Ⅲ. マーチ - ファンファーレ
Allegro Maestoso e Marcato (6/8拍子、子♩.=116)、リズミックな序奏部がベルトーン楽句を挟んで繰返され、そのまま快活な曲想のマーチ が展開する。
6/8拍子の特性を活かした3連符によるフレーズのビート感が、前楽章「ソロリクィ」とのコントラストを際立たせているのである。
続いて Clarinet 低音+Euphonium にて歌いだすトリオの旋律は素朴で、やはりどこか哀調を感じさせるものである。
マーチの序奏部が戻ってくると、それに続いてファンファーレが再現され、マーチとクロスオーバーしてスケールの大きな音楽へと発展していく。
そしていよいよ堂々とした足取りで終幕へと向かい、ファンファーレのモチーフを読み戻すや強力なリズムを奏する終結句へと至る。
■推奨音源
汐澤 安彦cond.
フィルハーモニアウインドアンサンブル
録音自体極めて少ない曲だが、この曲を人気曲に押し上げたメリハリの効いた好演である。
漸くCD音源化されたことは大変喜ばしい。ぜひ再評価を!!
【その他の所有音源】
ドナルド・デロッシュcond.ディポール大学ウインドアンサンブル
-Epilogue-
さて、カーナウ作品ではミュタンザ (Mutanza) にプロフェッショナルな楽団の録音がなく、現在も ”幻の曲” となっている。
本稿で採り上げた「交響的三章」にしても、CBSソニーの定番レコード「吹奏楽コンクール自由曲集’79」に収録され、同時収録の「序曲祝典(エリクソン)」「スー族の旋律による変奏曲(プロイアー)」等とともに人気曲となったのだが、なぜかこの曲はCD音源化が大幅に遅れたためか、前述の通り現在ではすっかり忘れ去られたかのような状態となっているのだ。
ひと頃に比べれば録音のない「名曲」はかなり減ってきたし、海外盤CDやデジタルミュージックで多くの音源が簡単に入手できるようにはなったが、良い録音のない「名曲」はまだまだたくさんある。
胸のすくような好演の音源が世に出れば、吹奏楽のプレイヤーたちはその楽曲が演りたくて、もう居ても立ってもいられなくなる。時には自分たちの技量の限界も超えて挑戦したくなり…そうして演奏した楽曲の体験と想い出はとても素晴らしいものだ。それはもちろん聴く者も楽しませるだろう。
ぜひプロフェッショナルな指揮者・楽団のみなさんには、そうした魅力溢れた ”凄い演奏” を音源として提供して欲しい!!
そうした素敵な演奏により発散された楽曲の魅力は、私たちの世界自体を滅茶苦茶にする感染症の蔓延や自然災害、或いは戦争といった理不尽な脅威に曝されることがあっても、プレイヤーたちの音楽への情熱を絶やすことなく燃やし続け、それが再び美しく烈しい炎へと結実する時を必ずや迎えさせるだろうから-。
<Originally Issued on 2021.2.10. / Revised on 2022.11.14. / Further Revised on 2023.12.25.>
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