Pageantry Overture J. エドモンソン John Edmondson (1933- )
-Introduction-
吹奏楽は他のどの音楽ジャンルより ”演奏参加型” であるがゆえか、こうしたまさに「愛すべき小品」と称すべき楽曲の世界が明らかにある。技術的には平易であり、感涙に咽ぶような感動までには至らなくても触れた者の心に残り、愛着をもってフレーズを口ずさまれる一曲 -。
それはそれでとても大切な存在なのである。
■作曲者と楽曲概説
作曲者ジョン・エドモンソンはフロリダ大学を卒業後、ケンタッキー大学で作曲を修めた人物で、プロ・トランペット奏者としてのキャリアも持つ。母校ケンタッキー大学の ”ワイルドキャッツ・マーチング・バンド” のスタッフ・アレンジャーを務めていたことからマーチングの分野にも明るく、ポップスのジャンルも含めコンサートバンド、マーチングバンドの双方に多くの作編曲作品を提供している。
1970年に出版されたこの「壮麗なる序曲」 (別邦題「ページェントリー序曲」) はエドモンソンの代表作であり、彼の作品の中で圧倒的な人気を誇る。
判りやすい構成と美しく親しみやすい旋律を持ち、技術的にも易しい作品でありながら、同時にモダンな響きも有していることが、その人気の理由であっただろう。洵に愛すべき小品である。
■楽曲解説
ベルトーン風に重なっていく分散和音で始まるごく短い序奏に続いて、Trumpet が全曲を支配する主題を提示して 「壮麗なる序曲」 はその幕を上げる。
この旋律がさまざまな楽器に受け継がれ変奏されていく単一旋律の楽曲なのであるが、旋律から感じられるのは終始しっとりとして抒情的な印象である。
楽曲の構成は非常にオーソドックスなもので、2小節の短い序奏に続き
Ⓐ Allegro-Meno Mosso-TempoⅠ
Ⓑ Moderato
Ⓐ’ Allegro-Maestoso-Piu Mosso
Coda Maestoso
から成っている。
Allegro で快活に始まった楽曲は高揚したのち、Meno mosso となって幅広く暖かく歌われるのだが、それによって旋律の持つ抒情性が一層際立ってくるのが感じられるだろう。
木管のトリルでテンポと快活さを取戻して Allegro を再奏したのち、さらにロマンチックな3/4拍子 Moderato の中間部となる。
木管群の歌うこの美しい旋律は、明らかにサティの「ジムノペディ第1番」の影響を受けたものであるが、とても幻想的で味わいがあり、この雰囲気を吹奏楽に持ち込もうとした作曲者の意図がよく伝わってくる。
素敵な旋律を、ちょっと気のきいた伴奏とサウンドで聴かせるこの曲は、古くささとは無縁の普遍的な魅力があると云えよう。
Trombone が堂々と中間部の旋律を提示してブレイク、カノン風の主題応答と打楽器のソリが交互に現れて快活さを取戻す。
そして音楽はさらにスケールを拡げてゆき、エキゾティックなハーモニーによってモダンなアクセントが楽曲に加えられ、雄大さを増したクライマックスとなって終結へ向かう。
■推奨音源
飯吉 靖彦(汐澤 安彦)cond.
フィルハーモニア・ウインド・アンサンブル
発音にやや荒さが感じられる部分もあるが、この曲の良さを確りと押さえた演奏である。
ちなみに他の音源を聴いても、それぞれに個性がありながらいずれもしっとりとよく歌う演奏となっている。
楽曲自体に ”歌心” が備わっているのだと改めて感じられるのである。
【その他の所有音源】
山田 一雄cond. 東京吹奏楽団
木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ
エドワード・ピーターセンcond. ワシントン・ウインズ
-Epilogue-
この「壮麗なる序曲」は、吹奏楽の音源 (レコード) 自体が非常に少なかった時代に、毎年定期的に発売されていたCBSソニー 「吹奏楽コンクール自由曲集」 の第1弾 ”ダイナミック・バンド
・コンサート” Vol.1に収録、紹介されたことから、特に1970年代には非常に数多く演奏された経緯にある。
演奏 Grade 2.5 という平易さながら、この曲には確かな魅力がある。当時の演奏機会の多さはその証明であろう。
やはり、”いい旋律” のある曲は強い-
つくづくそう思わされる。
難易度はもちろんのこと、手法が保守的あるいは前衛的だとか、内容が単純か複雑かとか、そんなことを超越して力のある音楽には確りと作られた旋律が存在する。
何といっても音楽の魅力の最大要素は、旋律なのである。
<Originally Issued on 2009.6.9. / Revised on 2011.1.3. / Further Revised on 2024.1.7.>
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