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平和の祭り (太平洋の祭り)

hassey-ikka8

更新日:2024年5月16日

Fiesta del Pacifico R. ニクソン  Roger A. Nixon   ( 1921-2009 )


-Introduction-

私にとって1960~1970年代にかけて発表されたアメリカの吹奏楽オリジナル曲への憧れは、どうしようもなく強いものである。吹奏楽=音楽に触れたばかりで、自分の関心というものが100%そこに向かった時期に出会った作品たちなのだ。

自分が実際に演奏できたら…と思うと居ても立っても居られないほどワクワクする楽曲の数々-ウイリアムズ、リード、マクベス、ジェイガー、チャンス、ネリベル…そのカッコ良さに夢中になっていた。

そしてニクソンの作品も、そんな私を惹きつけて已まない楽曲だったのである。


※この曲の邦題は作曲者自身も「太平洋の祭り」が適切

との見解だが、 本稿では私にとって馴染み深い「平和

の祭り」とさせていただいている。

※左画像:「平和の祭り」作曲当時 (1960年) の ” Old

 Spanish Days Fiesta” ポスター



■作曲者

「パシフィック・セレブレーション組曲」「シャマリータ!」などで高名な作曲者ロジャー・ニクソンはアーサー・ブリス、アルノルト・シェーンベルク、エルネスト・ブロッホらに師事したアメリカの作曲家で、1973年には「フェスティヴァル・ファンファーレ-マーチ」でABAオストワルド作曲賞も受賞している。

 作風としてはダイナミックでエキサイティング、またラテン系のリズム・旋律をフィーチャーしたものが多く、「平和の祭り」もこれに該当する。

しかし、より特徴的なのは ”Chilly” なニクソン・サウンドと言えるのではなかろうか。単なる「冷たい」という言葉は適切でないが、 エキサイティングな中でにあっても温度が上がりきることがなく、常に神秘性を兼ね備えたサウンドが個性的であり、最大の魅力と感じられるのである。


■楽曲概説

「平和の祭り」は1960年に発表されたニクソンの大ヒット作品。

米国カリフォルニア州サンタ・バーバラにて毎夏8月第一金曜の 「オールド・スパニッシュ・デイズ」 を挟んで行われる祭典の様子を描写した音楽である。


ニクソンはこの曲を ”音のフレスコ画” と称し、以下のように述べている。

「この曲は交響詩、或いは音楽劇ともいうべきもの。しかしそれは物語を語るというより、印象というものを描写的に創造するものだ。スペインとメキシコの混血民族 (スパニッシュ・メキシカン) の間でよく演奏される舞曲の形式を持つ作品であり、詳細な音楽的知識がなくても楽しんでいただけるだろう。」

【出典】秋山紀夫氏による解説


✔サンタ・バーバラ (Santa Barbara)

アメリカ合衆国カリフォルニア州南部の太平洋岸に位置し、温暖で夏季には乾燥する地中海性気候の町で、”アメリカン・リビエラの宝石“と称される。18世紀にスペイン人がこの地域を占領して以降スペイン領であったが、メキシコ独立の際にメキシコ領となり、米墨戦争により1847年にアメリカに併合された歴史を持つ。

さえぎるもののない海のパノラマ、そしてサンタ・バーバラ・ミッションや、サンタ・バーバラ郡裁判所といった史跡や赤い瓦屋根が点在するゆるやかな起伏の丘陵地帯の風景が醸し出すスペインの面影とが、大きな魅力となっている。

 【出典】GoUSAサンタ・バーバラ紹介ページ https://www.gousa.jp/destination/santa-barbara


✔オールド・スパニッシュ・デイズ ( Old Spanish Days )

スペイン系の住民が多いサンタ・バーバラの町を挙げて8月初頭に1週間にわたり催されるスペイン祭で、音楽・ダンス・パレード・ロデオ等で盛大に祝う。


1924年から始まったこの祭りはスペイン風の建築物がいっぱいのサンタ・バーバラの風景を背景に、フラメンコをはじめとする民族音楽と舞踊、カーニバル、美味しい伝統料理と工芸品のあるメキシカン・マーケット、サンタ・バーバラ・ミッションやサンタ・バーバラ郡裁判所へのツアー、ホースショーとロデオ、地域の最高級レストランも出店する夜祭りで大いに盛り上がる。




また600頭を越す馬が参加しカリフォルニア州の歴史をハイライトする、アメリカでも最大級の馬術パレードも見ものとなっている。 (尚、ニクソンの作品では「パシフィック・セレブレーション組曲」もこの「オールド・スパニッシュ・デイズ」を題材としたものである。)


 【出典】

Visit Calfornia : Old Spanish Days Fiesta

Santa Barbara : FIESTA


■楽曲解説

途中 Tempo di Valse の幻想的な曲想を挟むが、ほぼ全編にわたり Allegro (スコア記載テンポ:♩=138) で展開されるエキサイティングでエキゾチックな印象の楽曲である。

情景描写の要素が濃いはずであるが、その描写においては、打楽器も含めた各楽器の音色を生かした色彩の変化が巧みな上、重ねる楽器の組合せも面白い。耳を澄ませば澄ますほどにそれに気付かされることだろう。

上記4つの主要主題を持ち、これとその変奏が大きく見れば3部構成の中で、以下のように展開する構成である。特にAについては、変拍子も伴うなどさまざまな変奏が現れる。

◇Allegro:序奏-A-B-C-B-C-B-C-A

◇Tempo di Valse:D

◇Tempo I:A-B-序奏(再現))-[C+A]-コーダ

 

曲は3/4拍子、緊迫感溢れる Muted Trumpet + Snare Drum ( Snare off ) の刻み、そして木管楽器の装飾音を伴った打込みによるヴィヴィッドな序奏で始まるが、これは全曲を通じエネルギッシュなビートに貫かれたこの曲を象徴するものである。


続いて Clarinet (+Euphonium) に最初の主題Aが現れる。序奏のリズムを挟みながら Clarinet低音域を用い特徴的なリズムとアーティキュレーション、強弱の変化をつけて奏されるこの主題のエキゾチックさは大変印象的であり、その変奏が前半のクライマックスを形成していくこととなる。

ほどなくエキサイティングな打込みを従え、まるでテキーラを浴びるほど呑み、その酔いに任せて ”ぶっ放す” かのような激しい Trumpet ソロ!(記譜上ソロの指定はないが、この楽句のニュアンスはソロしか出せないはず。)


 金管群の4分音符による賑やかな変奏に続き 5/8 の変拍子がテンションを上げ、波打つような生命感を示す楽句のあと、低音にまた新たに一層エキゾチックな主題Bが現れる。


Fagotto に Xylophone という巧みな音色配置による印象的なブリッジを挟み、スピード感のある伴奏はそのままに、今度は Cor anglais のソロが息の長い主題Cを奏する。

これは Euphonium の対旋律を加えていよいよ朗々と歌い上げられていく。


弛むことのない伴奏のリズムに乗ったまま、こののち低音のエキゾチックな主題Bと、ソロ楽器によるこの息の長い主題Cとが交互に繰り返されて徐々に高揚し、前半のクライマックスへと向かう。

すると突如主題Aのモチーフが返ってきて 2/4-5/8-8/8 の変拍子… 遠くから近くへと息つく間もなく迫ってくるダイナミックな Timpani ソロはまさに圧巻!

その頂点で主題Aが強烈に奏されるというシークエンスが繰返され、極めてインパクトのあるクライマックスを形成するのである。


この激烈なクライマックスは Castanets ソロによって鎮まってゆき、主題Dの奏されるTempo di Valse へと転じる。

ここでは Celesta と Harp も加えた伴奏を従え、”木管五重奏” の音色で描かれる何とも幻想的なサウンドが提示されており、曲に実に効果的な変化を与えている。

 

Xylophone に呼び醒まされて Tempo Ⅰとなり、主題Aの変奏が Horn+Euphonium に現われる。伴奏のリズムをひと時弱めて奏されるその冷静なイメージと、合いの手となる打込みの鋭く強い響きの対比が面白い。

裸になった Horn+Euphonium のソリで主題Aの変奏を終うと、伴奏のリズムが甦ってきて主題Bが帰ってくる。

ppで低音に始まった主題Bは蠢くような木管+Muted Trumpet の動きを巻き込みながら、徐々に楽器を増やし放射状に増嵩していく。聴く者は音量とともに興奮も昂っていく感覚を味わうであろう。 Trombone が、そして Trumpet が主題Bに加わってゆき、ついに最高潮になった瞬間には全合奏大音量が渦巻くカオスの様相を呈す。

 

-それが一瞬 G.P.となって、序奏が短く再現されたのち主題Cが今度は高らかに謳われる…その劇的さよ!

Trumpet がリードする壮麗な旋律に低音群のカウンターが呼応し、そして主題Aもカウンターに加わるここで、3拍子=舞曲の色彩を前面に押し出し Castanets を加えた打楽器群を伴って絢爛鮮烈な音楽となり、まさに祭りでの舞踊の興奮を画にして見せてくれるのだ。


主題Cが木管群のリードに移ってから、一層高らかに響く Euphonium と Horn のカウンターのカッコ良さも見逃せない。


興奮の頂点となる全曲のクライマックスでは、Trumpet+Trombone+Euphonium が最高に輝く主題Cの変奏を鮮やかに放つ。1小節1つ振りの大きなスケールに音楽が拡大し、全てが呑み込まれるようで圧倒的な印象となる。

これに叩きつけるような主題Aの変奏が続き、興奮は息つくところがない。

その激しさに打楽器群が畳みかけ、感動を更に高まらせるのがまた凄い!


頂点で再び現れる効果的な G.P. のあと、Trumpet+Trombone のファンファーレとともに簡潔なコーダとなり、興奮のまま一気呵成に曲を閉じる。 

-これほどに血沸き肉踊る曲想にもかかわらず、響きは Chilly なニクソン・サウンドに支配されているのだ。

この個性、やはり只者ではない!


■推奨音源

スコア表記では主部が♩=138 のテンポ指定であるが、より速めのほうがこの曲の表現には相応しく、♩=150 程度が最も音楽的快感が高いと思われる。

その意味で、快速なテンポで表現する演奏を推したい。


ドナルド・ハンスバーガーcond.

イーストマン・ウインドアンサンブル

小気味よいテンポで色彩豊かにこの曲を描く。コントラストの鮮烈さとメリハリの効いた好演。










尚、1971年の全日本吹奏楽コンクールでの関西学院大学の演奏も、この曲のニュアンスを存分に表現した快演。

非常にメリハリを効かせながらも緩むことのない快速なテンポで一気呵成に聴かせ切る。スケールが大きくニュアンスに富み、表現の幅も豊かなハートのある演奏であり、打楽器の好演も光る。

特に最終盤の壮麗なクライマックスで見せる高揚感は圧倒的で、この作品の理想的な姿を示していると言って良い。







【その他の所有音源】

ハリー・ベギアンcond. イリノイ大学シンフォニックバンド(Live)

ドナルド・デロッシュcond. ディポール大学シンフォニックバンド

ハワード・ダンcond. ダラス・ウインドシンフォニー

デニス・レイエンデッカーcond. アメリカ空軍軍楽隊

ローウェル・グレイアムcond. アメリカ空軍”Heritage of America”バンド

ローウェル・グレイアムcond. アメリカ空軍戦術部隊バンド (Live)

ウィリアム・レヴェリcond. ミシガン大学シンフォニック・バンド

ニコラス・エンリコ・ウイリアムズcond. ノーステキサス大学ウインド・アンサンブル

金 洪才cond. 九州管楽合奏団(Live)

アダム・ウォーシャムスキーcond. イースタン・ウインド・シンフォニー(Live)

リチャード・フロイドcond. ベイラー・ウインド・アンサンブル

 

-Epilogue-

私の大好きなロジャー・ニクソンだが、日本のプロフェッショナル・バンドが録音したものはほとんどない。本稿で採り上げた「平和の祭り」も日本のプロフェッショナル・バンドが録音したCDは「存在しない」のである。

他にも例を挙げれば、モートン・グールドの傑作「サンタフェ物語」も未だに日本のプロフェッショナル・バンドが録音したものはない。私にとって大切な1960~1970年代にかけて発表されたアメリカの吹奏楽オリジナル曲を、日本のプロフェッショナルバンドが素晴らしい指揮者を招聘し、感動できる演奏で録音してもらえないものだろうか?

-そう切望して幾星霜、未だにほとんど叶っていないのが本当に淋しい…。

 


      <Originally Issued on 2006.9.20. / Revised on 2011.2.20. / Further Revised on 2024.1.5.>



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