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序曲「祝典」

hassey-ikka8

更新日:2024年5月17日

Overture Jubiloso    F. エリクソン  Frank William Erickson  (1923-1996 )


-Introduction-

吹奏楽界というのは不思議なトコロで、”祝典序曲” とこれを倒置しただけの ”序曲「祝典」” とで、何故か別の楽曲だとちゃあんと判別がつく。「祝意を示す序曲」という意の標題を持つ楽曲はそれこそたくさんあるわけだが、吹奏楽関係者にとっては ”祝典序曲” といえば何といってもショスタコーヴィチの作品が、そして ”序曲「祝典」” といえば本稿で採り上げるエリクソンの作品が、実にスムーズに想起されることだろう。


■作曲者

序曲「祝典」 の作曲者フランク・エリクソンは「吹奏楽のためのトッカータ」「吹奏楽のための幻想曲」といった技術的には易しくメロディアスな、とても親しみやすい楽曲で知られる。どれも奏者に不安を感じさせることのない、纏まったサウンドと確りとした骨格を持つ曲ばかりで、1960-1970年代のバンドにとって、重要なレパートリーとなっていたのである。

 エリクソンは、一貫して教育的な立場から音楽=吹奏楽に接してきた作曲家であり、手掛けた作品も ”現場” の視点から離れることはなかった。


そのことはエリクソンの著書「バンドのための編曲法」(音楽之友社/伊藤 康英 訳)にも端的に現れている。

普遍的な編曲論・理想は押さえつつも、楽器の特性はもちろん、” 奏者が未熟であるということは、どういうことか ” ”アマチュアバンドの現実の編成は如何なるものか ”といった制約を踏まえ、実践的な手法を説明しているのだ。

更に演奏者にとって読みやすい記譜の仕方にまで言及されていることは、アマチュアバンドに対するエリクソンの配慮と愛情を感じさせるものである。


■楽曲概説

序曲「祝典」は1978年の出版、エリクソン最大のヒット作の一つである。

本邦ではCBSソニーから毎春発売されていた「コンクール自由曲集」1979年版LPに収録され、瞬く間に人気を集めた。国内版の譜面も発売され、楽曲が知れ亘った翌1980年の吹奏楽コンクールでは早くも数多くのバンドに演奏されている。全国大会では1979年に中学・職場で1団体ずつが採り上げたに過ぎないが、下部大会での演奏団体は1980年代を中心にそれこそ無数にあったはず※ である。

※吹奏楽コンクールデータベース (Musica Bellaさん)によれば1979

 年=26団体、1980年=68団体、1981年=46団体が自由曲として採  り上げ、その後も現在に至るまで絶えることなく演奏されている。


難易度の割に聴き栄えがするし、コンクール自由曲としてカット不要の丁度いい尺あったこともそうだが、何より時代/世代が望んでいた吹奏楽曲のトレンドを先駆けて掴んでいたことが、人気の理由だったのではあるまいか?

 

曲冒頭から繰り返されるリズム・パターン- ベースラインと8分音符のアクセントのリズミックさ、コード進行からして、たまらなく吹奏楽界を惹きつけた。

前述の「コンクール自由曲集1979」ではA面第1曲目がこの曲だったが、初めてLPに針を落として曲が始まった途端、「あっ、これだ!」という新鮮な魅力が間違いなくあったのだ。

当時待ち望まれていた ”この感じ” は序曲「祝典」こそが端緒であって、後にスウェアリンジェンやバーンズ、ハックビーらの作品が一時代を築いた流れへと、確実に繋がっていったと思う。


■楽曲解説

序曲「祝典」の難易度はそう高くはないが細かい音符も多く、それまでのエリクソンの作風からは少々 ”意外感” もあった作品である。

ミズーリ大学ローラ校バンド※ の50周年を祝う ”祝典序曲” にもかかわらず、冒頭から提示される旋律からして短調を挟むことで真摯な表情を見せる、変わり種でもある。

 

※ミズーリ大学自体はコロ

 ンビア校がその中核であ

 り、ローラ校は元々鉱冶

 金学校だった歴史を持つ

 ユニークな学校とのこ

 と。またこのローラ校は

 レックス・ミッチェルに

 「大草原の歌」を委嘱した

 ことでも知られる

 

形式はA-B-A-コーダと典型的なものである一方、リズミックさを絶やすことなく維持しつつ、長調と短調とがくるくる入れ替わって、表情とサウンドの輝きを変え続けるさまには斬新さが感じられる。そこがエリクソンの腐心だったかもしれない。


前述の通り、冒頭から繰り返されるベースラインと8分音符のアクセントのリズム・パターンが大変特徴的であり、そのリズミックさは序曲「祝典」の印象そのものでもあるだろう。この快活さにあふれたリズムに導かれ、朗々とした旋律が現れて曲が開始する。

繰り返される旋律に Trumpet の16分音符の楽句がオブリガートとなって、スピード感と緊張の新味を加えている。これなどは従来のエリクソンのスタイルになかった楽句である。

楽曲は主題をオーソドックスに反復して提示・展開するが、短調の厳しい表情と、輝かしさ或いは重厚さをもったサウンドとがそれぞれ対比的に用いられており、聴き手の興味を巧みに刺激し続けている。

悠々と視界の開けたイメージのある主題の変奏楽句も現れ、





これと緊迫したムードを醸し出すベルトーンとを対照的に配することで、巧みに場面転換している。

 

この流れを後ほどの緩徐部分から快速部分の再現部へのブリッジに少々形を変えて呼び戻すことで、楽曲の統一感も生み出しているのである。









短いブリッジでテンポを落とし、ノスタルジックな中間部に入る。最もエリクソンらしい旋律が聴かれる部分である。移り変わる楽器の音色配置も巧みで、音楽に奥行きが生まれている。

そして何といっても、スケールの大きなクライマックスを現出したことで、エリクソン作品の中でも出色の出来映えになったと云えよう。

豊かなサウンドと色彩に支えられた、このスケールの大きさこそが感銘を与えていることは見逃せない。単に旋律が郷愁に満ちているだけでは、これほど聴衆のノスタルジーに訴求することはできないはずなのだ。


名残惜しげに中間部を終うと、ベルトーンを用いて緊張と弛緩の表情を織り交ぜるブリッジが主題のモチーフを導き出す形で、快速な再現部へとつなげていく。


コーダでは主題の音価が拡大され、これをエネルギッシュな伴奏が彩る濃厚なクライマックスへ-。

テンションとダイナミクスの高揚が、煌びやかなぶ厚いサウンドへと帰結して炸裂する!

 

そこからはターボチャージャーにスイッチが入ったが如く、スピードとエネルギーを一層高めて2拍3連符が特徴的であるエキサイティングな終結部へとなだれこみ、聴くものを昂奮させて已まない。

 







最後に足取りを緩めて堂々たるエンディングを迎えるが、最後の最後は中低音のみのユニゾンとなり、打楽器 (Timpani, Snare Drum, Bass Drum) のロールを伴ったF音全音符で締め括られるのが実に渋い。

“祝典曲”としては異色の響きで締め括られるのである。


この序曲「祝典」はエリクソンが作曲において貫いてきたスタンスの延長線上で、更に一段 

”突き抜けた” 作品となった。アマチュアにも楽しめる (或いは”教育的な”) 楽曲の枠組みの中にありながら、この高みにあることがとても価値のあることであり素晴らしい!

広く愛奏されているのも、当然なのである。


■推奨音源

汐澤 安彦cond.

フィルハーモニアウインドアンサンブル

”ノリノリ” であることがこの曲の重要な要素だと思うが、その特長が存分に発揮された好演である。

また中間部へのブリッジのテンポ設定、およびリタルダンドが非常に適切であることは特筆できる。







【その他の所有音源】

 フレデリック・フェネルcond. 東京佼成ウインドオーケストラ

 山下 一史cond. 東京佼成ウインドオーケストラ

 小澤 俊朗cond. 尚美ウインドオーケストラ

 デニス・ゼイスラーcond. ヴァージニア・ウインドシンフォニー

 新田 ユリcond. 大阪市音楽団

 小野 照三cond. 葛飾吹奏楽団

 木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ

 汐澤 安彦cond. 東京吹奏楽団

 鈴木 孝佳cond. TADウインドシンフォニー (Live)


-Epilogue-

エリクソンの遺した愛すべき楽曲たちをまとめた作品集もご紹介しておこう。

デニス・ゼイスラー cond.

ヴァージニア・ウインド・シンフォニー

 

演奏は相応のレベルとしか云えないが、非常に貴重な録音であり、ファンにとってはかけがえのないもののはずである。(収録曲=下掲画像)

ローレンス・ストウェルcond. カリフォルニアステート大学

ノースリッジ校 ウインド・アンサンブル

エリクソンによる「吹奏楽のための交響曲」集。第1~3番までその全てを収録しており、これもファン待望の音源であったもの。






<Originally Issued on 2011.1.15. / Revised on 2013.2.23. / Further Revised on 2023.11.12.>

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