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歌劇「いやいやながらの王様」より ”スラヴ舞曲”

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更新日:2024年8月27日

Danse Slave from " Le Roi Malgre Lui "

E. シャブリエ Emmanuel Chabrier (1841-1894)


-Introduction-

2009年のオペラ=コミック座公演より

クラシック界ではあまり知られておらず、ほぼ実演されることもない-そうした”良い曲” の如何に多いことか…。そうした曲を吹奏楽が拾い上げ、聴衆とともに楽しみつつ後世に繋げていくというのも、とても有意なことだと思う。 この 歌劇「いやいやながらの王様」より ”スラヴ舞曲” などはまさにその典型である。


■作曲者

代表作「狂詩曲スペイン」が広く知られるフランスの作曲家エマニュエル・シャブリエ1887年に作曲した歌劇が「いやいやながらの王様」である。

シャブリエは専門的な音楽教育を受けておらず、法律を学んで40歳目前の1880年に辞するまでフランス内務省に勤務していた異色の作曲家である。加えて53歳の若さで世を去ったことから、その才能に比して遺した作品の数は多いとはいえない

作曲に専念する以前から既に多くのピアノ曲やコミック・オペラに至る作品を著していたこともあって”才気あるアマチュア”と評されたが、それが同時に終生彼のコンプレックスであったと伝わる。

しかしながらシャブリエはダンディーやフォーレ、マスネをはじめとする作曲家や、マネやモネ、ルノワールといった画家、詩人ヴェルレーヌといった一流の芸術家と深い親交があり、その作品も間違いなく一流だった。

溌剌とした機知に富み優雅なメロディーに溢れ、加えて和声に先進性を示すと評されるシャブリエの音楽は、後に続くフランス近代の巨匠ドビュッシーとラヴェルにまでも(この巨匠二人が自ら明言しているが)大きな影響を与えたのである。


【出典・参考】

 オックスフォード オペラ大辞典(平凡社)

 藤田由之、斉藤靖幸両氏によるCDリーフレット解説


■歌劇 「いやいやながらの王様」 と ”スラヴ舞曲”

歌劇 「いやいやながらの王様」 ( Le Roi Malgre Lui ) は1887年のパリに於いて、オペラ=コミック座 ( Théâtre national de l'Opéra-Comique ) によって初演された、3幕から成る喜歌劇である。


歌劇 「いやいやながらの王様」 あらすじ

フランス王家から、新たなポーランドの王に迎えられようとしていたアンリ・ド・ヴァロワ。 -しかし彼は酷いホームシックにかかっていた。

フランスを恋しがり、戴冠式の日が迫るにもかかわらずポーランドから逃げ出したいという思いは募るばかりであった。


そんなアンリは、オーストリア貴族エルネスト大公を新王に据えるため、アンリを誘拐しポーランド国外へ強制追放してしまおうという陰謀が進行していることを知る。

この陰謀に乗っかれば母国フランスへ帰れる!-そう睨んだアンリは親友ナンジに成りすまし、逆にナンジを自分に仕立て、なんと陰謀団に加担し陰謀を成就させようとするのだった。



首謀者の親族ゆえに陰謀団に参画したアレクシナが、実はかつてアンリと恋仲であり、この二人の焼けぼっくいに火が着いたり、ナンジの恋人ミンカは陰謀を阻止せんとする主流派のスパイだったりと、複雑な人間関係に色恋ごとが絡んでいく。


何とかフランスへ逃げ戻ろうと陰謀団を焚きつけ、陰謀を実行させていくアンリだったが、彼らの方針が「誘拐した王(アンリのこと)はやっぱり殺してしまおう!」という話になってきたから、…さあ大変!

情報が錯綜し、ミンカやアレクシナも絶望したり心配したりの大騒ぎとなるが、王の守護隊も駆けつけてきて落着し、全てが当初の話通り丸く収まった。


「いやいやながらの王様」 と称されながらも、アンリはポーランド王の冠を戴き、国民の祝福を受けてハッピーエンドとなる。



✔スラヴ舞曲

”スラヴ舞曲” はこの歌劇の第3幕、初めの幕間 (間奏曲) に続く場面に登場するものであり、しばしば単独でも演奏される。 (この歌劇において、他に単独で演奏される楽曲としては第2幕冒頭に登場する ”ポーランドの祭り” を挙げることができる。)

明朗で屈託のないこの喜歌劇を象徴するような楽曲となっている。


この第3幕の当該場面は、ポーランド国境近くの宿屋でポーランドの民衆が戴冠式の日の祝賀会を開催している様子であり、歌劇では合唱も加わり一層賑やかに演奏される。

全編を通じ変わらぬ Allegro con brio 3/4拍子の快活な舞曲であり、3部形式に成る。 (このAllegro con brio の適切なテンポ設定がまずもって好演の条件であることは疑いない。)


”スラヴ舞曲”と冠していながら、生命力漲るダイナミックな曲想ばかりでなく、息づくリズムは感じさせつつ優雅で愛らしく洒落たイメージも現れるなど、小品ながらさまざまな表情を見せる魅力的な楽曲である。如何にもフランス的な機知に富んだ印象なのは、シャブリエならではであろう。


【出典・参考】

シャルル・デュトワcond.

フランス放送新フィルハーモニー管弦楽団

(歌劇 「いやいやながらの王様」 の貴重な全曲盤CD)

の構成及びリーフレット解説










■楽曲解説

冒頭は Oboe・Fagotto・Clarinet・Horn という室内楽的な響きの序奏に始まる。

これに続いて応答する楽器群が次々と加わって高揚し、弾けるような舞曲の主部となるのだが、その瑞々しい生命感に魅了されてしまう。


続いて Clarinet の音色の印象的な楽句に導かれて第2主題が提示されるが、ここでは悠々と伸びやかに伴奏するベースラインに抱(いだ)かれる感覚が、何とも心地よい。

リズミックな経過句を挟んで G.P. の後、再び繰り返される第2主題は一層華やかにスケールを拡大して奏されて行き、これを彩る Horn のオブリガートがまた際立っている。


ブリッジを経て愛らしく優美な旋律の中間部へと入るが、このブリッジは微かに憂愁を匂わせるものとなっており、それがもう実に気が利いているのだ。ここから一層優雅に歌われていくこの中間部の旋律が、絶妙な塩梅でテンションを高めながら展開していくさまは感動的である。


またそれが心弾む弦のピツィカートの頂点からすぅーっと緩んで…融通無碍な音楽の快感がそこにある。単純な場面の切替えではなく、ニュアンスを含んだ ”移ろい” が表現された演奏を期待したい部分である。


序奏部をより細かい音符に成したブリッジを経て主部からを再現、充分な高揚の後に短いコーダに突入し、快活さと品格を兼ね備えたこの舞曲は最後も爽やかに閉じられる。


■推奨音源

ポール・パレイcond. デトロイト交響楽団

小気味良いテンポに始まり終始生き生きとしたリズムが息づいており、抒情的であったり可愛らしかったりといった音楽の表情変化の豊かさが素敵! パート間・声部間の絶妙なバランスが保たれ続けており、音楽の流れが途切れない。

”思わず抱きしめたくなる” そんな好演である。






【その他の所有音源】

 エルヴェ・ニケcond. モンテカルロ・フィルハーモニック管弦楽団

 ジャン=バティスト・マリcond. パリ国立歌劇場管弦楽団

 ミシェル・プラッソンcond. トゥールーズ市立管弦楽団

 リチャード・ヘイマンcond. ポーランド国立放送交響楽団

 リシャール・ブラローcond. オペラ=コミック座管弦楽団

 エルネスト・アンセルメcond. スイス・ロマンド管弦楽団

 アルミン・ジョルダンcond. フランス国立管弦楽団


-Epilogue-

この ”スラヴ舞曲” は吹奏楽にもアダプトされており、実演する機会に恵まれた際に私はたちまちこの曲が大好きになってしまった!


全日本吹奏楽コンクールでは1977年に吉良中が 「マズルカ」 という表題でこの曲を採り上げたのが初演なのだが、その後も頻繁に演奏されているとは云い難い。楽曲としては小品の位置づけなれども、今こそこういった外連味のない愛らしい音楽を吹奏楽はもっと演奏すべきと思うのだが…。

複数出版されている市販譜は重要な対旋律がカットされていたり、サウンド的に吹奏楽としての再構成が不足していたりといった状況であり、より広く演奏されるためにも ”決定版” と云えるアレンジが待望されよう。


<Originally Issued on 2017.5.27. / Revised on 2024.1.11.>


 
 
 

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