top of page
hassey-ikka8

第3組曲 R. E. ジェイガー

更新日:5月17日

Third Suite for Band Ⅰ. March Ⅱ. Waltz Ⅲ. Rondo

R. E. ジェイガー  Robert Edward Jager  (1939- )


-Introduction-

なんと ”素敵な” 楽曲であろうか!

各楽章それぞれに創意を凝らした個性があり、それが対比的に魅力を放ちつつも、全楽章を通しての聴後感は一つの作品として実によくまとまっている印象。最初から終わりまで明朗快活な音楽の愉しみに溢れているが、吹奏楽の機能を駆使してそれを実現しているのには唸らされてしまう。


■作品概括

楽曲としては「小品」の部類だと思うが、過不足のない規模にこれだけの内容が盛り込まれるという完成度の高さ-ロバート・ジェイガーの才能と手腕が凝縮した名曲である。ジェイガー自身もこの第3組曲 (1965年) を ”tuneful” と評しているが、全くその通りで魅力的な旋律がふんだんに登場するさまはまさに眩い宝石箱さながらだ。

そして4拍子と3拍子が組み合わされた「マーチ」、3拍子と2拍子が組み合わされた「ワルツ」というユニークさが示す新機軸…。したがってとても個性的なのだが、マーチの持つ推進力、ワルツの舞踊感という本質は失われることなく、確りと示されているのが凄い!

これに対して最終楽章には形態こそオーソドックスだが、その分コントラストをより効かせたダイナミックな音楽である「ロンド」を配置しており、これが全体を引き纏めるという心憎さなのである。


■楽曲解説

それでは、ジェイガーのコメント ( 「」 ) を引きながら、楽章ごとに見てみたい。

 

I.マーチ

「この『第3組曲』はとてもメロディアスで親しみやすい作品だが、演奏者にとってチャレンジしがいのある要素を確りと盛り込んであり、これが同時に聴き手にとっては興味深いものになっていると思う。”安定的なフィーリングとリズム” というマーチが本来有する特性を少々ゆがめることにはなるが、第一楽章で小節ごとに拍子を変えているのもその例である。」

4/4拍子と3/4拍子が交互に繰返され進行する異色な行進曲で、大変にユニーク。

曲のスタートで、Clarinet のふくよかな音色を活かしていることも見逃せない。

間違いなく異色ではあるが、生命感に満ちた推進力、途切れぬビート感は紛れもなく「行進曲」そのものなのだから畏れ入る。拍子の頻繁な変更は、親しみやすい旋律に絶妙な味付けを加えているのである。


第2マーチ、ならびに(打楽器群の鮮やかなソリに続く)トリオは5/4拍子!これがまた個性的だ。

終結部では厚みを増したエネルギッシュなサウンドとなり、ユーモラスな楽句のエンディングで終う。

トリオの前に挿入された打楽器ソリは「ここはこのマーチのおもしろいところ」とのコメント通り、ジェイガー自身のお気に入りである。


Ⅱ.ワルツ

「このワルツでは、前楽章と同様に拍子がゆがめられている。ワルツではおなじみの3/4拍子も、今ここではそんなワルツらしからぬ仕打ちを受けているわけだ。豊かな色彩とコントラストがこの楽章に重要な特徴を加えており、終盤では Flute による主題が繰返された後、短い G. P. を挟んで元気いっぱいのコーダにて曲を閉じる。」

 

今度は3/4拍子と2/4拍子が交互に繰返される異色のワルツであるが、この楽章もワルツの持つ流麗さは存分に示されている。

Flute の涼やかな音色で始まり木管合奏、Oboe ソロと続いたかと思うと、リズミックな金管群の楽句へ。


さらに続いて現れる、ルバートを伴い甘美な旋律を奏でる木管+Euphonium のサウンドは弦楽合奏を彷彿とさせて…と次々に示される音色対比が素晴らしい。楽曲は興奮を高めてブレイクするが、たちまちに冒頭の Flute が帰ってきて優雅さを取戻す。

G. P. の後は諧謔味に満ちた Clarinet の旋律に始まるコーダ、快速な変拍子で一気に駆け抜けて行く。


Ⅲ.ロンド

「ABACABAの形式に成るロンドで、全合奏が5つのコードを吹き鳴らして幕を開けるが、この序奏部が提示する『5つのコード』は、全曲を通じ重要な接続部の役割を果たしている。

”A” の主題は Cornet ソロによって提示され、木管がこれを繰返す。短調に転じて全合奏が ”B” の主題を奏し、”A” を繰返した後に Piccolo が ”C” を導くのである。”C” もまた繰返され、再び強奏された『5つのコード』が聴こえてきて、これに3度目の ”A” が続く。突然調子が変わって最後の ”B” となるが、ここは実際には ”A” ”B” ”C” 全ての主題が一体となって展開されている。

Timpani のロールが轟き亘ると、最後の ”A” が足早に聴こえてくる。そして冒頭に現れた『5つのコード』に基くクライマックスを形成して、フィナーレだ。」


ジェイガーの謂う「5つのコード」は F - E♭maj7 9 - Fm7 - E♭maj7- F 。これを統一的に接続部に使うことでロンド形式の楽曲らしい落着きが生まれているが、響きはなかなか斬新である。 終始明朗快活な曲想の組曲にあって、この「ロンド」はさらに明快さを高め、豊かなダイナミクスと鮮やかなコントラストを持つ終曲である。そして序盤の軽やかな Cornet ソロからしてそうであるが、愛らしい旋律が充満している。

また ”C” セクションでは Piccolo のメロディも、合いの手のベースラインも、そのおどけた感じがたまらなく微笑ましい!


シリアスな表情の短調部分も織り交ぜながら、とどまることのないエネルギッシュさで推進され、鮮やかに全曲を締めくくる。


■推奨音源

汐澤 安彦cond. 東京佼成ウインドオーケストラ

この演奏が断トツの出来映え、決定盤!

テンポやダイナミクスの設定が極めて適切で、コントラストも充分なのに加えて、音色にスピード感と生気があり、また実に品が良い。

特に「マーチ」では冒頭の音の長さ・音型など奏し方がこの上なくフィット!中間部の打楽器ソリも胸がすくもので、作曲者の意図を体現したと云えよう。

行進曲らしからぬこの曲の混合拍子に惑い、推進力を失っている他の演奏とは一線を画す名演なのだ。



【その他の所有音源】

 アーサー・チョロドフcond. テンプル大学ウインド・シンフォニー

 ティモシー・レイcond. テキサスA&M大学シンフォニックバンド

 木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ

 Alfred 社 デモ音源(演奏者不詳)

 ロン・ハウステイダーcond. テキサス大学エル・パソ校ウインド・シンフォニー

-Epilogue-

どう考えても、今でももっと演奏されて然るべき楽曲である。

決して深刻な緊張感はないけれど、とても洒落ていて音楽の本源的な愉しみをストレートに伝えてくれる。つくづくこれほど高品質の吹奏楽オリジナル曲は珍しいと思う。まさにこのレベルのクオリティを持つ楽曲こそが、吹奏楽界に待望されるのだが…。

この曲を筆頭に、ロバート・ジェイガーこそは今まさに再評価されるべき作曲家である。本当に素敵で、惹きつけられる楽曲がたくさんあるのである。もっと演奏を…そして名演の録音を!



     <Originally Issued on 2010.10.23. / Revised on 2022.5.7. / Further Revised on 2023.11.16.>




閲覧数:62回0件のコメント

Comentários


bottom of page