Second Suite for Band Ⅰ. Fanfare Ⅱ. Ballade Ⅲ. Scherzo
R. E. ジェイガー Robert Edward Jager (1939- )
-Introduction-
「習作」としての要素もあり、作曲者ジェイガーがあまりお気に召していないからなのか-
現在の版権が訳ありになってしまっているからなのか-
この名作の楽譜は今や絶版、入手は困難となっている。…率直に言ってあり得ない、許されない状況である。
■楽曲概説
✔作曲の動機
この「第2組曲」 (1965年)は、ロバード・ジェイガーがヴィンセント・パーシケッティの著した「20世紀の和声法」(Twentieth Century Harmony ;Creative Aspects and Practice -W. W. Norton 1961) を読んで自発的に作曲したものであり、委嘱によって書かれた作品ではない。
「『20世紀の和声法』に述べられていることを実験しようと思い書いたもので、たくさんのポリコード(複合和音)を使っています。」
-ジェイガーのコメント:1975年初来日時インタビューより
✔「20世紀の和声法」
著者ヴィンセント・パーシケッティ (Vincent Persichetti 1915-1987) は20世紀アメリカにおける重要な作曲家のひとりであり、吹奏楽においても「ディヴェルティメント」「交響曲第4番」「詩曲”ああ、涼しい谷間”」「仮面舞踏会」など、多くの名作を遺している。
この「20世紀の和声法」は水野久一郎氏による和訳 (音楽之友社) も出版されているが、具体的な譜例をふんだんに用いて総覧的に「和声の能動性を明らかにし、なお学生や若い作曲家たちに利用されやすいようにするのを目的としている。」ものであり、また「ここでは20世紀の本質的な和声技法に関して細部にわたる研究が現代作曲家たちの実際によって紹介されている」との表明通り、各技法を用いた20世紀の楽曲をその部分に至るまでごく具体的に列挙紹介している。
当然、その内容は私のようなど素人が理解し活用できるようなレベルを遥かに超えている。ただ、本書に挙げられた ”例” の数多さからしてパーシケッティの尋常でない研究心と労力は間違いなく窺えるのであって、ある意味ゾッとするほどだ。
ジェイガーが特に言及した「ポリコード」については、第7章に詳述されている。「自分の作品がいつも同じようでは進歩が無い」との問題意識を持ち、懸命に「進歩」を求めていたジェイガーに、本書がインパクトを与えたことは間違いないだろう。
✔「第2組曲」の魅力 叙上のようにこの作品は習作ともいえるものではあるが、作曲当時 (1965年) の吹奏楽曲として、大変モダンな曲想、かつアグレッシブな取り組みが見られる。
”和声的な実験” を作曲のバックグラウンドに持ちながら、ジェイガーは「色彩」「コントラスト」「リズムの面白さ」に意を払ったとしており、印象的なフレーズや美しい旋律、心躍らせるエキサイティングさに溢れた洵に魅力的な作品となっている。各楽章が絶妙の対比を示しながらも統一感をも兼ね備えており、終始薫り高い気品を感じさせるのである。
■楽曲解説
ジェイガー自身が各楽章ごとにコメント (「 」) しており、それと併せて内容をご紹介する。
Ⅰ.ファンファーレ
「第1楽章はやや抑制された荘重さを持った”ファンファーレ”。全曲を通じても同様であるが、ここでは「色彩」と「コントラスト」を強調している。高音楽器と低音楽器、そして木管楽器と金管楽器との「コントラスト」が興味深く感じられることと思う。 「色彩」 の強調という点では、中間部に現れる Horn の使い方をその良い例として挙げたい。」
低音楽器の重厚な G 音に載って、Andante maestoso (♩=84) のファンファーレが始まる。
ジェイガーのコメントにある通り、大仰ではないが ”透明感のある高貴さ” を湛えた音楽である。
これが今度は Trombone+Euphonium+Tuba に引き継がれるのだが、カウンターの高音楽器群との対比が実に見事。
低音と Timpani のロールに導かれて一旦静まり、4声の Horn によるフレーズ…。
ジェイガーが ”この色彩を見てくれ” と言及した部分であり、神秘的なムードに満ちる。
再び全合奏となりクライマックスを形成するが、ドラ( Tam-tam )をはじめとする打楽器の使い方も大変効果的である。特に終盤で木管群の旋律に呼応する Timpani はその荘厳で堂々たるさまが大変印象に残る。
終始、幕開けにふさわしい清冽で爽やかな音楽となっているのである。
Ⅱ. バラード
「第2楽章でも「色彩」は重要な要素である。短い序奏に引続いて、Cor anglais の大変抒情的なソロとなる。その後に続く旋律は全てこのソロが奏する主題が発展したもの。柔らかな不協和音や、あまり一般的でない楽器の組合せを使用しながらこの ”バラード” は進んでいくが、最後は Cor anglais のソロが戻ってきて曲を閉じる。」
Lento cantabile (♩=48) のリリカルな緩舒楽章、B♭m7の陰のある幻想的な響きに続き、Clarinet - Cor anglais –Flute – Horn – Alto Sax. - Oboe と次々にソロが現れる、各楽器の音色や特性を存分に生かした音楽である。
テュッテイで一旦高揚したのち、再び静まって神秘さを増し、さらに Euphonium - Horn とソロが続く。
Horn ソロの部分では Fagotto と Bass Clarinet によるカウンターが大変斬新で、通常の吹奏楽ではあまり聴かれることのない響きを聴くことができる。
続くテュッティでやや足取りを速め、スケールの拡大とともに高揚し堂々たるサウンドのクライマックスに至る。
それがすぅっと静まって Cor anglais のソロが戻り、このロマンティックなバラードは遠くへと消えてゆく。
Ⅲ. スケルツォ
「第3楽章 ”スケルツォ” では「色彩」「コントラスト」に「リズム」の要素を加えている。まずこの曲のリズムの特質を打楽器群が提示し、Fagotto によって主要主題が奏される。これがEuphonium によって繰り返されたのち、ミュートをつけた Trombone をバックに従えたHorn による主題の変奏。主要主題はさらに木管楽器群で反復されるが、ほどなく Clarinetによる第2の主題へと繋がり、クライマックスを築く。そしてすぐさま主要主題に基く金管群のリズミックな伴奏へと移り、Cornet と Horn が主題の変奏を続け、二度目のクライマックスだ。
打楽器群によるビルド・アップに続いて全合奏で主要主題を反復し、全楽器による2つの強力な ”クラッシュ” (124小節目:Dm6の4分音符 × 2)のあと、”ファンファーレ” が再現される。第1楽章の短い抜粋であるファンファーレだが、これが音楽に推進力を与え、”スケルツォ” に戻って輝かしいエンディングをもたらすのだ。」
Vivace (♩=160)、ダイナミックでエキサイティングな最終楽章。緊迫感あるスリリングな表情も持つ。密やかだが明確なビートを示す打楽器ソリに始まり、
これに Fagotto から歌い出す第1旋律が載ってくる。
快活でありながら終始緊迫した音楽が展開し、第1旋律が発展高揚した後に今度は Clarinetから第2旋律が始まり、エキゾチックなバックハーモニーとともに Trumpet へと受け継がれていく。
それに続く、美しく切ない Oboe ソロが緊迫を一層高めるのである。
目まぐるしくダイナミクスを変化させながら拡大した音楽はサッと鎮まるや、冒頭に Timpani が提示したシンコペーションのリズムが再び現れて、第1旋律の豪快な変奏となる。
そして打楽器のエキサイティングなソリに続いて第1旋律のモチーフがベルトーン状に折重なって全曲最大のクライマックスに向かい、リズムもダイナミクスも烈しいものとなって全合奏で激しく鳴動する。-そしてその頂点で突然の G.P.!
そして第1楽章の清冽なるファンファーレが鮮やかなドラの響きとともに再現される。その爽快さと劇的さによって、まさに筆舌に尽くし難い感動の瞬間が生まれるのだ。
これに続く一気呵成のエンディングも、まさに圧巻!である。
■推奨音源
朝比奈 隆cond. 大阪市音楽団
ジェイガーの意図 ( 「色彩」 「コントラスト」 「リズムの面白さ」 ) が確りと表現された演奏で素晴らしい。すみずみまで真摯にこの楽曲に向き合った演奏である。
他にCD音源がないのだが、この曲に関してはこれがまさに決定盤であり充分ともいえる。それほどの魅力に溢れている。
【その他の所有音源】
渡邊 一正cond. 東京フィルハーモニー交響楽団管打楽器セクション
-Epilogue-
この曲の作曲当時、吹奏楽のオリジナル曲において使用される和音や楽器のコンビネーションは相当限定されていたのであろう。現在となってはそう珍しくはなくなった手法も、吹奏楽に可能性を求めたジェイガーら先達によって切り開かれてきたわけだ。
この「第2組曲」はそんなジェイガーの意欲と自負を感じさせる。
しかしそれを抜きにしても、美しい各楽器の音色が魅力的な旋律を奏でつつ、感動的な音楽の流れを生み出しているさまを間違いなく聴くことができる。純粋に素敵な音楽として、お奨めしたい。この名曲の楽譜が入手困難であり、録音も僅少であり、演奏機会も非常に少なくなっている…なんてのは、文字通り由々しき事態である。
ぜひ再評価を、そして新たな真の名演の登場を私は心から待望する。
<Originally Issued on 2007.7.12. / Revised on 2008.10.19. / Further Revised on 2023.12.12.>
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