Sonata for Winds C.カーター Charles Carter (1926-1996)
-Introduction-

印象的な楽句や、どうにも惹きつけられる旋律があると、その楽曲のことがあっという間に好きになる。特に 「旋律」 が魅力的であることは音楽の魅力そのものと直結すると思う。

チャールズ・カーターの作品は 「序奏とカプリス」「ラプソディック・エピソード」 「交響的序曲」 「管楽器のための序曲」「クイーンシティ組曲」 などどれも明快で愛らしいものだが、平明だからと云って決して ”幼稚” と切り捨てるわけにはいかない確りとした内容を持つ曲ばかりである。そして彼は優れたメロディー・メーカーであり、どの曲も魅力ある旋律を持っている。
特に私はこの 「管楽器のためのソナタ」 中間部のセンチメンタルでノスタルジックな、暖かい旋律 (上掲) が大好き!
ぜひこういう 「歌」 のある曲こそを演奏したいのだ。
■楽曲解説

カーター得意のパターンは急-緩-急の3部形式で、再現部へのブリッジにカノンあるいはフガートを配したもの。
対位法的楽曲はカーターの得意とするところであり、中間部の旋律はどれも優美で、単純ながら構成もしっかり。そしてハーモニーとリズム ( Snare Drum )はなかなかモダンで洒落ている。
この 「管楽器のためのソナタ」 (1959年) もそのカーター・スタイルの典型と云える楽曲であり、私の一番好きなカーター作品である。
Allegro Moderato (♩=138) の全合奏によるきびきびとした陽気なオープニングからしてまさに最高!で、その天真爛漫な曲想は、広く聴く者の心を癒すだろう。
続いて現れる木管のたおやかさが、品のあるお嬢さんを見ているようで、また良い。

再び冒頭の旋律が繰り返され、やや憂愁を帯びたブリッジを挟んで Moderato Expressivo (♩=72) の抒情的な中間部へと移る。
それは Euphonium (+Alto Clarinet ) の暖かい音色によって導き出される、このうえなく優しく安寧な音楽である。

Poco piu mosso (♩=76) となって現れる中間部のノスタルジックな旋律はしみじみと美しく、それがアゴーギグを効かせて歌い上げられると、センチメンタルでロマンティックなムードでいっぱいになる。
これに表情豊かな Euphonium (+Alto Clarinet, Tenor Sax. ) 或いは Flute・Oboe のカウンターが絡んできて旋律を引き立たせ、抒情を極めていくのである。

そして旋律に Trumpet も加わって高揚し、クライマックス (練習番号 G )を迎えるが、音量が拡大してもこの音楽はどこまでも優しく暖かいのだ。それがとても感動的で心を揺する。

中間部のクライマックスが静まるとその余韻から TempoⅠとなり、Trombone を中心とした金管中低音+打楽器によるリズミックなブリッジを挟む。

これで活気づいた音楽はそのままに、冒頭旋律のカノンへと展開する。3度遁走してカノンが収束しスケールの大きな曲想となったのち、直ちに冒頭部が再現される。
最後は Maestoso (♩=96) の堂々とした足取りのコーダとなり、曲を終う。
♪♪♪
ああ・・・こんな優しい音楽を快活に、そして美しく演奏できたら、さぞや素敵だろうな -
と思わずにはいられないのである。
■推奨音源

汐澤 安彦cond.
フィルハーモニア・ウインド・アンサンブル
表現にメリハリがあって、纏まりのあるサウンド。中間部の Trumpet も歌心豊かに朗々と歌い、この曲の良さをストレートに伝えてくれる演奏である。
この作品の世界で唯一の音源がこのように好演であることは救いだが・・・何とLP音源のみでCD化されていない!
-Epilogue-
こんなに魅力のある楽曲なのに、まともな音源供給もされておらず忘れ去られたかのような存在となっているのは本当に残念。
またこういう楽曲は、演奏者サイドからも「舐められがち」だと思う。楽曲の魅力を見抜き、確りと捉えて表現する-この曲に限らず、そう心得たいものだ。
<Originally Issued on 2006.10.30. / Revised on 2010.2.22. / Further Revised on 2024.1.24.>
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