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[音源堂コラム⑥] 愛しの 「マイ・フェア・レディ」

hassey-ikka8

更新日:4 日前

-Introduction-

私にとって オードリー・ヘプバーン ( Audrey Hepburn 1929-1993 )は永遠の憧れ。私と同じ思いのファンは世界中にあふれていて、「ローマの休日」「麗しのサブリナ」「パリの恋人」「いつも二人で」「シャレード」「ティファニーで朝食を」などの名作映画は、今も観るものを魅了し続けている。


彼女の主演作品ではヘンリー・マンシーニが度々音楽を担当し、”ムーン・リヴァー”を はじめとする名曲が画面を彩った。他の出演作を含め、豊かな(映画)音楽に恵まれた女優さんでもあったのである。


なお、数々の名作の中から私の一番好きなオードリー主演映画を挙げよと言われたならば、それは 「昼下がりの情事」 (Love in the afternoon 1957年) ということになる。


邦題から受けるイメージとはかけ離れたピュアなラブ・コメディーであり、パリを舞台にビリー・ワイルダー監督らしい洒脱な映画である。

まだ映画がカラー化されていない時代の作品であり、モノクロームの映像で描かれているのだが、それがまた却って奥行のある味わいとなっている。


「人妻だろうが何だろうが次々と女をこますモテ男」 がメインキャストとして登場すること自体、昨今は受容れ難いのだろうがそんなことはどうでもいい。

このずっと年上のモテモテイケメン=フラナガンに恋をして、精一杯の背伸びを続ける女学生アリアーヌを演じるオードリー…まさに彼女の魅力炸裂である。


本作のラスト…フラナガンが愛おしさのあまりアリアーヌを列車へと抱き上げる、ロマンチックでドラマティックなシーンはもうたまらない!

そしてこの作品でも、名曲 「魅惑のワルツ (Fascination)」 がジプシー楽団によって奏され、映画を彩っている。


■ミュージカル 「マイ・フェア・レディ」 とその映画化

✔ブロードウェーミュージカルの大ヒット作


「マイ・フェア・レディ」 は1956年にブロードウェーで初演され、ミュージカル作品賞を含むトニー賞6部門を受賞した大ヒットとなったミュージカル。

オリジナルの舞台版では 「サウンド・オブ・ミュージック」 「メリー・ポピンズ」 などで高名な ジュリー・アンドリュース(Julie Andrews 1935-) が主演を務めたが、1964年には オードリー・ヘプバーン の主演で映画化され、これも大ヒットしアカデミー作品賞を受賞した。

不朽のミュージカル名作として、現在も広く愛されている。


1900年代前半のロンドンが舞台となった物語。下町の花売り娘イライザが、偏屈だが優れた言語学者であるヒギンズ教授に徹底的に鍛え上げられ、僅か6ケ月で華麗なレディに変身する物語である。


脚本と作詞を担当した アラン・ジェイ・ラーナー(Alan Jay Lerner 1918-1986/右) と作曲の フレデリック・ロウ (Frederic Loewe 1901-1988/左) による楽曲は、全てが素晴らしい!


「マイ・フェア・レディ」 は文字通り、名曲の宝石箱というべきミュージカルとなっているのである。







※映画版あらすじの詳細 (名場面も掲載した完全版)


✔原作 「ピグマリオン」 とミュージカル 「マイ・フェア・レディ」

このミュージカルの原作は ジョージ・バーナード・ショー (Gerorge Bernard Shaw 1856-1950) の戯曲、「ピグマリオン (Pygmalion)」 である。

※ピグマリオンという標題はギリシャ神話に登場するキプロス王の名に因るものである。

彼は現実の女性には目もくれず、理想の女性を思い描いて自ら石像を製作する。ピグマリオン王はガラテアと名付けたこの石像に恋焦がれるが、それを見ていた女神アフロディーテが石像に命を与えてガラテアは人間の女性となり、ピグマリオン王と結ばれる -というエピソードが伝えられている。戯曲の内容からすれば、ショーがその標題を 「ピグマリオン」 としたのは、相当な皮肉であるといえよう。 


倉橋健による邦訳版(白水社)

「ピグマリオン」 と 「マイ・フェア・レディ」 との決定的な違いは、物語の結末部分である。

即ち、「ピグマリオン」 では花売り娘からレディに変身したイライザと、ヒギンズ教授とが結ばれることはない。「ピグマリオン」 には後日譚が付されており、イライザはフレディと結婚し、ヒギンズとは対等の友人関係を続けたとある。


ヒギンズはイライザに失恋するのではなく、最後まで女性というもの (というより恋愛というもの自体) を必要としない男であり、イライザに恋愛感情を抱くこともないまま終わってしまう。原作におけるヒギンズはまるっきり性格欠陥者といったニュアンスで描かれている。


これに対し 「マイ・フェア・レディ」 では、変わり者のヒギンズ教授も最後は自らがイライザを愛していることに気づき、イライザは彼の全てを受入れてヒギンズのもとに戻ってくるシーンを描く。二人が結ばれることを暗示した、ロマンティックなハッピー・エンディングとなっているのである。


✔映画化された 「マイ・フェア・レディ」

私にとっての 「マイ・フェア・レディ」 は、大好きなオードリー・ヘプバーンが主演する映画版である。既に高い評価を得ていたこのミュージカルを映画化するにあたり、監督の ジョージ・キューカー (George Cukor) は 「完璧」 を期したとされる。

スタッフは、衣装=セシル・ビートン、音楽監督=アンドレ・プレヴィンを初めとする超豪華布陣。主演をオードリー・ヘプバーンにシフトした上で、劇中の歌唱はマーニー・ニクソンによる吹き替え。同様にフレディ役/ジェレミー・ブレットの歌う 「君住む街角」 も吹き替えである。


※近年発売された「マイ・フェア・レディ【特別版】」 DVDには、特典映像としてオードリー自身の歌唱による ”素敵じゃない?” ”証拠を見せて” の2曲が収録されている。

オードリー・ファンの私としては、これもこれで悪くはないと思うが、純粋に音楽として見れば、歌唱力のみならず声質からしてもマーニー・ニクソンの歌の方が遥かに次元が高い。キューカー監督の選択も、 「あり」 だと改めて認めざるを得ないところだ。

この当時は、ありとあらゆる手段を尽くしてエンターテインメントとしての完成度を志向した時代でもあったということだろう。



全てのシーンが甲乙つけ難いのだが、私が特に大好きなのはヒギンズの優しさにふれたことをきっかけに苦手な発音を克服し、イライザが喜びを爆発させる 「スペインの雨」-「踊り明かそう」 と続く場面。

希望に輝き、生き生きとしたオードリーの表情と楽曲の魅力とが相まって、大きな感動を与えてくれる。

…そしてラストシーン、ヒギンズ教授の最後の台詞を受けてイライザの表情が実に豊かな笑顔に変わる-そのオードリーの演技の絶妙なこと!


レディへと変身したイライザの ”美しさ” のイメージに合致するのは、何といってもオードリーをおいて他にないと思うけれど、この映画でオードリーの果たしたことは、当然それだけではない。全編に亘りニュアンスを細やかに表現した演技が、実に素晴らしいのだ。

歌が吹き替えだからといって、この映画のオードリーが輝きを失うことは断じてない。



■吹奏楽と 「マイ・フェア・レディ」

「マイ・フェア・レディ」 は、吹奏楽においても人気のレパートリーとなっていて名曲を抜粋したメドレーが幾つも吹奏楽版に編まれている他、単独のナンバーの編曲も愛奏されている。代表的なものを紹介しておこう。


R. R. ベネット (Robert Russell Bennett) 編曲

運が向いてきたぞ - 君住む街角 - 素敵じゃない?- 時間通りに教会へ - 忘れられない彼女の顔 - 踊りあかそう

「シンフォニック・ソング」 「アメリカ古舞踊組曲」 で吹奏楽界にも知られたベネットは、実はオリジナルの舞台版 「マイ・フェア・レディ」 の編曲者でもある。当時彼がイメージしていたであろう吹奏楽サウンドで書かれており、響きは古風なモノトーン。

演奏:野中 図洋和cond. 陸上自衛隊中央音楽隊



岩井 直溥 編曲

イントロダクション (忘れられない彼女の顔) - 運が向いてきたぞ - 踊りあかそう - 忘れられない彼女の顔 - 素敵じゃない?- 君住む街角

ニュー・サウンズ・イン・ブラスの一曲として発表されたもので、さまざまなリズムパターンを使用してアレンジされている。どこまでもポップな 「マイ・フェア・レディ」。

演奏:岩井 直溥cond. 東京佼成ウィンドオーケストラ




J. カカヴァス (John Cacavas) 編曲

序曲 (でかしたぞ!) - 君住む街角 - スペインの雨 - 素敵じゃない?- 舞踏会のワルツ - アスコット・ガヴォット - 忘れられない彼女の顔 - 証拠を見せて - 踊りあかそう

たくさんのナンバーを詰め込んだメドレー。サウンドは吹奏楽としてはかなり薄い印象を受ける。

演奏:P. ネヴィルcond. ロイヤル・マリーンズ・バンド





小林 久仁郎 編曲

交響的絵画「マイ・フェア・レディ」

序奏(踊りあかそう-君住む街角) - 素敵じゃない? - 運が良けりゃ - スペインの雨 - 踊りあかそう - アスコット・ガヴォット - 君住む街角 - 証拠を見せて - 時間通りに教会へ - 忘れられない彼女の顔 - 踊りあかそう

多くのナンバーを詰め込んだ長大なメドレーでお腹いっぱい。アレンジは各原曲の雰囲気を守ったオーソドックスなもの。 演奏:瀬尾 宗利cond. 文教大学吹奏楽部 [Live]




杉本 幸一 編曲

序曲 - 市場の男たちのコーラス(「素敵じゃない?」前奏部分) - アスコット・ガヴォット - 君住む街角 - 証拠を見せて - 忘れられない彼女の顔 - 踊りあかそう

稲垣 征夫cond. NEC玉川吹奏楽団 の2005年度全日本吹奏楽コンクール自由曲として編曲されたもので、同楽団は全国大会で銀賞を受賞した。

編曲者は「妥協はしていない」とコメントしており、演奏難度は高いが演奏効果も高く、感動的で聴き応えがある。映画版だけでなく、ジュリー・アンドリュース主演の舞台版にも着目し、大編成を生かしたゴージャスでダイナミックなアレンジである。

    ※上掲CDはNEC玉川吹奏楽団のコンサート・ライヴ。この曲の演奏としては同バンドの全日本吹奏楽コンクール本番の

     方が優れているが、惜しくも銀賞に止まったため、残念ながらこちらは市販音源となっていない。


「踊りあかそう」  岩井 直溥 編曲 「マイ・フェア・レディ」の中でも一番人気のナンバーを多彩に聴かせる完成度の高いアレンジ。

ゴージャスなミュージカルショー・サウンドのイントロとエンディングを配し、悠々とノるチャチャ、活力漲るディキシー、そしてポップス・マーチ…岩井アレンジ最高傑作の一つ。

演奏:岩井 直溥cond. 東京佼成ウィンドオーケストラ




「君住む街角」  岩井 直溥 編曲

全編 Trombone ソロ・フィーチャーでアレンジ。

途中ルンバも挟みつつ、モデラート・スウィングでカッコ良くグルーヴする傑作。

演奏:天野 正道cond. 東京佼成ウィンドオーケストラ






■原曲音源

ジュリー・アンドリュースによる「マイ・フェア・レディ」メドレー収録CD および映画版サウンド・トラック盤

-Epilogue-

「マイ・フェア・レディ」 は、本当にどれも ”力” がある素晴らしい楽曲ばかり。

音楽の力というのは実に不思議で、ジャンルだとかそういうものを超えて心に訴えかけてくる。感動はクラシックの名曲にだけあるものではない。

” いいものは、いい ”

-これが真実だと、つくづく思う。



<Originally Issued on 2008.7.13. / Completely Revised on 2025.1.9./ Further Revised on 2025.1.17.>

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