Sedona S. ライニキー Steven Reineke (1970- )
-Introduction-
SEDONA:Red Rock Crossing
この曲もまたオープナー向きの優れた作品である。魅力ある旋律をスピード感あふれた曲想で多彩に展開させ、聴くものの心を躍らせる- 実にキャッチーな楽曲となっている。 「セドナ」はアリゾナ州北部にある見事な景観と偉大な遺跡の地であり、スティーヴン・ライニキーはこれを生き生きとそしてエキサイティングに音楽で活写している。
雄大でダイナミックにして色彩豊かなライニキーの手法によって、高々と聳えるレッド・ロックの台地が截然たる青空に切り込むセドナの情景が、あたかも眼前に映し出されたかのように感じられるだろう。
-出版社デモ音源CDリーフレット所載の解説より
■作曲者
スティーヴン・ライニキーはシンシナティ・ポップス
・オーケストラのアレンジャーとして100曲以上の編曲を手掛けたのち、現在はポップス・オーケストラとしては北米最大の楽団であるニューヨーク・ポップスの音楽監督を務めている。同時にナショナル・シンフォニー・オーケストラ、ヒューストン交響楽団とトロント交響楽団の首席ポップス指揮者でもある。
もともとトランペット奏者として音楽家のキャリアをスタートさせたこともあってか、吹奏楽界にも 「鷲の舞うところ」 「ホープタウンの休日」 「神々の運命」 「火の鳥の飛翔」 といったオリジナル曲を、数多く提供して
いる。2007年には大作「吹奏楽のための交響曲第1番
”New Day Rising”」を発表し、一層の注目を集めた。
【出典】ダラス交響楽団HP Steven Reineke - Dallas Symphony Orchestra
そんな彼の作品の中でも、「セドナ」 (2000年) は特に人気が高い。
明快な構成と印象的な旋律 -一つの旋律を展開・変奏していくのだが、旋律の魅力と豊かな色彩感とで、決して飽きさせることのない佳曲となっているのである。
■セドナ -人々を魅了する景観とパワースポット
✔セドナとは
ライニキーが音楽で描いた 「セドナ」 はアメリカ・アリゾナ州北部にある景勝地である。突き抜けるように青い空と、低木の緑とに囲まれた赤色の巨岩 (=レッドロック:鉄分を多く含む) のパノラマが名高い。
その壮観と、美しい水辺の光景が見られるオーククリーク・キャニオンの入口にもあたることから、セドナには年間約400万人もの観光客が訪れるとのことである。
※本稿で採上げた「セドナ」のスコア表紙(左画像)もこの「レッドロック」をフィーチャーしている。
セドナにはボルテックス (Vortex) という所謂 ”パワースポット” がいくつも存在しており、スピリチュアル・リゾートとしての人気も持つ。この ”ボルテックス” では、大地から磁場が渦を巻いて湧き起こっているといい、「日常の疲れが癒された」 「普段夢を見ない人も毎晩夢を見る」 「身体の痛みがとれる」 「自然に悩みが消えていく」 など、”癒しのパワー” が得られると紹介されている。
古来ネイティブ・アメリカンの聖地として扱われていたというこの地には、自然の不思議な力が備わっているということだろうか-。
✔4大ボルテックス
4大ボルテックスは、街自体がパワースポットといわれるセドナの中でも特にエネルギーが強い場所といわれ、世界中から多くの人々が訪れる。
パワースポットとして有名なだけでなく、その景観や頂上からの景色もまた格別な美しさを持ってるのが特徴とされ、また各ボルテックスによって放つエネルギーが異なり、「癒し」 や 「活力」 など感じられるパワーは様々だという。
エアポート・メサ
(Airport Messa)
エネルギッシュな活力が漲り肉体に癒しを与える聖なる岩と言われる。トレイルにおいても容易に登ることができ、絶好の瞑想&景観スポットになっている。
セドナの町が一望できるので、朝日、夕日を見に行くにはぴったりの場所である。
ボイントンキャニオン
(Boynton Canyon)
セブンキャニオンという7つの渓谷に囲まれた聖なる場所であり、大地から柱のように沸きあがるエネルギーは最も強力とされる。セドナでも一番神聖な場所にして、五感を超えた洞察力を増幅させ人生に光をもたらす聖なる渓谷と言われている。
カセドラル・ロック
(Cathedral Rock)
セドナでも最も有名なレッドロックであり、その大聖堂のような神々しい岩の形がその名の由来。母に抱かれているような女性的で包容力のあるエネルギーを発し、感情的な安らぎと調和を与えてくれるという。
満月の夜にはドラムを奏でる人もいるとか。
ベル・ロック (Bell Rock)
ネイティブアメリカンはここを鷲の住処と呼んでいたとのことで、上空からどこまでも見渡せる鷲の明晰さが与えられる特別な場所として考えられていた。
勇気と決断力を与え、男性的名エネルギーに満ち溢れる場所とも言われる。 転機に揺れる精神を癒してくれる場所である。
【出典】セドナ観光ガイド (クラブワールド) https://www.vortex-world.com/sednaguide/
4大ボルテックス (VELTRA) https://www.veltra.com/jp/north_america/sedona/ctg/3522:Voltex/
■楽曲解説
短く、しかし鮮烈にクレッシェンドする Snare Drum のソロで曲を開始、非常に斬新なオープニングである。
楽曲は急-緩-急の典型的な序曲形式にして、前述の通り明快な旋律線の音楽であり、大変親しみやすい。
しかしながらその旋律の素晴らしさと展開に見せる音色の彩りが見事で、充分な音楽的魅力も備えている。これこそを作曲家の ”手腕” というのだろう。
ソロを数多くかつ効果的にフィーチャーしているのも特長で、優れたプレーヤーを揃えた実力のあるバンドであれば、それだけ高次元の音楽になることは疑いない作品である。
快速部は Allegro con brio 4/4拍子、意外感のある Snare Drum のソロでスタートし、ファンファーレ風のモチーフ提示で幕開けする。
続いて快活なリズムに乗り、Clarinet の歌いだす旋律がのびのびと躍動する。
各楽器の音色対比もオーソドックスに確りと活かされているし、フレーズの終わりには効果的な Horn の gliss-up を聴かせるなど、実に気が利いている。
静まってテンポを緩め、抒情的な Trombone ソロが現れるブリッジとなる。
これに導かれて Andante cantabile 3/4拍子の中間部となり、ファンタジックな伴奏を従え、Flute ソロが美しく歌う。楽曲は楽器の特性・音色を存分に発揮させながら高揚し、同じ旋律がまた違った味わいで歌い上げられていくのである。
その頂点で音楽は幅広い、雄大なクライマックスとなり、聴いているものに確かな満足感、そして不思議にほっとした安寧を与えるのだ。
再び静まって名残惜しげな Flute の余韻の中、Sanare Drum のリズムが快活さを呼び戻し、カノン風のブリッジへ。ここでもClarinet、Fagotto のソロが掛け合い、さらには Flute も加わってきて、音色の多彩さを印象付けている。
コンパクトな再現部を聴かせたのちは、生命感とスピード感を増したコーダへ突入。
急速にテンションを高め、最後はテンポを捲ってほとばしる清流をイメージさせる爽快なるエンディングを迎える。
■推奨音源
これほどキャッチーな旋律が生み出せた段階で楽曲の成功は約束されたともいえるが、これを活かす ”余計な重量感のない (=爽やかな軽さの)” サウンドが特徴的な作品だと思う。
曲全体のシンプルな完結感・統一感の高さが、却ってこの曲の魅力を充実させていると感じられるのだ。
音源はそうした魅力を端的に伝えるものをお奨めしたい。
エドワード・ピーターセンcond.
ワシントン・ウインズ
おなじみ ”デモ音源職人” の 「職人芸」。
この演奏はその 「職人芸」 の中でも屈指の好演と思う。
「如何にもスタヂヲ録音」 なのを差引いても、本当に素晴らしい。お見事!
山下 一史cond.
東京佼成ウインドオーケストラ
「如何にもスタヂヲ録音」 がどうしても嫌という方にはこちらの演奏を。伴奏と旋律のグルーヴに一体感が充分とは云えないが、自然な響きの演奏で実に手堅い。
【その他の所有音源】
ハンス=ピーター・ブラッサーcond. マルクグラフラー連盟吹奏楽団
木村 吉宏cond. フィルハーモニック・ウインズ大阪
丸谷 明夫cond. なにわオーケストラル・ウインズ (Live)
-Epilogue-
ライニキーは今やアメリカ/北米におけるポップス・オーケストラの第一人者であるが、そんな彼の作品はポップスのテイストやフィーリング、手法も加えたモダンで大変垢ぬけたものばかり。
まさに「現代」の演奏形態である吹奏楽だからこそ- ライニキーによるまた新たな傑作オリジナル曲を待望したいと思う。
<Originally Issued on 2008.12.28. / Revised on 2024.1.28.>
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