ジュビラーテ
- hassey-ikka8
- 6月9日
- 読了時間: 7分
Jubirate
R.E.ジェイガー (Robert E.Jager 1939- )
-Introduction-

ふと無意識に出てしまう口笛や鼻歌-それは人それぞれに違っていると思うが、私の場合は相当の確率で冒頭譜例のフレーズが現れる。1978年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲 A「ジュビラーテ」練習番号 E の Piccolo ソロ(A.Sax.とのソリ)である。
-何で「ジュビラーテ」?自分でも判然としない…。
■1978年、全日本吹奏楽連盟40周年記念委嘱作品の課題曲
1978年の全日本吹奏楽コンクール課題曲は
A ジュビラーテ (R.E.ジェイガー)
B カント (W.F.マクベス)
C ポップス変奏曲「かぞえうた」 (岩井 直溥)
D 行進曲「砂丘の曙」 (上岡 洋一)
であり、私が演奏したのは「かぞえうた」。コンクールの想い出が「ジュビラーテ」にあるわけではない。
全日本吹奏楽連盟はその40周年記念事業として、この年の課題曲をジェイガー、マクベスという二大巨匠に委嘱していた。ところがマクベスは日本のコンクールを当時のアメリカのコンクール(初見演奏審査が中心と聞いた)と同様と想定し、初見演奏用の楽曲を提供してしまったようだ。そのためか全国大会で「カント」を演奏したバンドはなし、という結果になってしまった。
また、前年の課題曲D (=行進曲「若人の心」) が編成の小さいBの部以下を対象としていたことから、1978年も「課題曲DはAの部では使えない」という思い込みがかなりの広範囲で発生していたと思う。大分県予選では選択したバンドはゼロ、西部(現九州)大会でも「砂丘の曙」を選んでいたのは全部門で石田中(沖縄)だけだったと記憶している。
ただ、その石田中は「砂丘の曙」を ”行進曲の枠組を超えて” 歌いまくり、自由曲も伝説の名演となった「パッサカリア」を揃えて全国大会へ進む。そして、金賞までも射止めてしまったのだが…。
そのような1978年課題曲の中で、「ジュビラーテ」が圧倒的な支持を集めていたことは間違いない。旋律はどれも魅力に溢れており、それがこの短い作品の中で次々に繰り出されて聴くものを惹きつけるのだ。自由曲もジェイガー作品で揃えるバンドもあり、”ジェイガー大好き” な私は羨ましくて仕方がなかった。
思えば冒頭譜例のフレーズが私に刷り込まれたのも、そんな渇望ゆえだったのだろうか…。 ■作曲者および楽曲概説

1978年当時、ロバート・ジェイガーの人気はまさに絶大であった。代表作「シンフォニア・ノビリッシマ」は日本人のハートを捉えまくっていたし、「シンフォニー・フォー・バンド(交響曲第1番)」「第2組曲」「第3組曲」「ダイアモンド・ヴァリエーション」などがコンクール自由曲としても採り上げられ、人気曲となっていた。1976年に東京佼成ウインドオーケストラの委嘱により「交響曲第2番『三法印』」が作曲されたことも当時の人気ぶりを物語る。 1975年初来日ののち、1983年に再来日して東京佼成ウインドオーケストラを指揮し演奏会を行うとともにセッション録音も実施し、大好評を博した。まさに人気絶頂期にあたり、全日本吹奏楽連盟が記念事業としての1978年度コンクール課題曲作曲をジェイガーに委嘱しようと考えたのは如何にも然りであったと云えるだろう。
自らの進歩を求めて、ジェイガーは現代的な手法と曲想に成る楽曲の作曲に傾倒(1972年の「シンフォニエッタ」からと指摘される)していったが、その以前にジェイガーの人気を確立した作品の持つ魅力は、今も輝きを放っている。1983年の再来日時には秋山紀夫氏から 「”シンフォニア・ノビリッシマ”や”シンフォニー(交響曲第1番)”にみなぎる、あの初期のメロディーの美しさをもっと聴かせてほしいと願っている人がたくさんいると思うよ」 とジェイガーにラブコールが送られた※が、これはまさに芯を食った見解だと思う。
※「バンドピープル」1983年4月号記事より 尤もジェイガーも自作の特に緩舒部分が日本人に大変人気があることを知っており、「ジュビラーテ」 を書くにあたってはこの ”期待” に応えようとしたとのことである。その結果、「ジュビラーテ」 は現代的な手法を用いることなく、まさに日本人の期待した通りの作品となった。
■楽曲解説

急-緩-急の典型的な序曲形式であり、表題は ”歓喜の小楽曲” といったニュアンスか。全日本吹奏楽連盟の40周年を祝う意図もあったであろう。
ジェイガー自身が解説したように、冒頭はホルストの 「木星」 (組曲 「惑星」 第4曲) にインスピレーションを得たもので、最初の主題提示も Horn (+ Sax) で行われる。

これに続く「木星」 よろしくシンコペーションを効かせた主題の展開が特徴的。
後年この「ジュビラーテ」を演奏した際、トレーナーの方から「シンコペーションは音を抜かないで!(=音の保持を充分に)じゃないとリズムやテンポが判らなくなる。」と指導され、なるほどと得心したものである。
視界が開けて、Clarinet 低音に現れる歌は実に幅広く暖かい。

続いて拍子を頻繁に変えながら、木管セクションを中心としたおどけたような曲想の応酬へと移る(件の Piccolo ソロ=冒頭譜例もその中のワンフレーズ)が、それが Snare Drum の16分音符に導かれ突如目覚めたかのようにエキサイティングさを取戻すや、あっという間に前半のクライマックスとなる。全合奏による sffp からのクレシェンドも鮮やかな、ダイナミックな音楽である。
熱を冷ますようにモチーフの断片を奏する Tuba に導かれて音量とテンポを鎮め、6/8拍子の中間部 Cantabile へと向かう。ここではひらりひらりと舞うような Flute の伴奏にのって、再び優美な旋律を Clarinet が歌う。とても幻想的な印象である。

旋律は Flute + Oboe に移って一層静謐で内向的なものとなり、これが高揚して曲想はロマンティックさを極めていく。

そしてその頂点で旋律に絡んでくる、 Euphonium (+ Sax) の対旋律がまた実に感動的で素晴らしい!

あまりにもロマンティックなこの対旋律...ぜひ存分にしかもここは Euphonium のビロードのような黒艶の音色で聴かせてほしいところである。

Horn のソリにドラを伴った金管中低音が加わって響かすDmaj7のコードがいよいよ幻想的なムードを深めたのに続き、中間部冒頭が戻ってくる。
ほどなく Allegro con brio の再現部へと入るが、ここでは旋律が大きなうねりとなってセクション間を受け渡されて循環し、昂ぶるさまが聴きものだ。最後は短いコーダに突入し、スネアのリムショットとベル・トーンにより簡潔にして鮮烈なエンディングとなる。
♪♪♪
課題曲としての役目を終えたのち「ジュビラーテ」は改訂※され、Southern Music より出版された。非常にコンパクトにかつ確りとまとまった佳曲であり、何より中間部の夢想的な幻想性は、永く愛される価値のあるものである。
※改訂箇所:中間部に入る前 (=練習番号Gの3小節前) の Tuba, Fagotto の動きを4分音符スタッカート → 休符なしの長い音符のスラーに変更したのに加え、終結部にも変更が見られる。
■推奨音源
音源は1975年以降の課題曲デモ・テープ音源がついにCD化されたものがある。
2008年までの全て (但し、1979年課題曲 E 「朝をたたえて」 を除く) が、4CD × 2セットにて網羅されたのである。

この中で 「ジュビラーテ」 は
アントニン・キューネルcond.
東京佼成ウインドオーケストラ
による演奏。 ”完璧” とはいえないし当時多かった「如何にもスタヂヲ録音」な音源ではあるが、真摯で情熱的な演奏であり、私はやはりこれをお薦めしておきたい。

尚、改訂新版の録音は
渡邊 一正cond.
東京佼成ウインドオーケストラ
の演奏で聴くことができる。
(2012年4月発売)
【他の所有音源】 ※いずれも課題曲版
渡邊 一正cond. 大阪市音楽団
山下 一史cond. 東京佼成ウインドオーケストラ
-Epilogue-
演奏参加型の音楽である吹奏楽において、「課題曲」は特別な存在。なにしろ見事なまでに各世代ごとの”共通体験”なのである。
「○○○(課題曲名)の年に中3で…」なんていうだけで、歳まで判ってしまう。(笑)
課題曲であろうがなかろうが、良い曲は良いし、良くない曲は良くない。ただ、否が応にも ”演奏体験” が付加されるために、課題曲は過大評価されがちだと思う。本来、楽曲に対する評価は ”演奏体験” を除いた客観性によって下されるべきなのに、である。
もちろん如何なる課題曲であっても ”想い出” としての価値は十二分に認めるところではあるのだが…。
いずれにしても、日本中のバンド (しかも多くは若い生徒たち) が長い時間と多大な労力、思い入れを投入するのであるから、提供する側にも、「課題曲」 を音楽的魅力や内容を備えたものとする責務があるはずだ。
「(オーケストレーションを含めて)”良くない音楽” を何とか良いものになるよう演奏することこそが、課題曲への取組である。」
などという馬鹿げた考えは、まさかないだろうと信じたい。しかしながら、永きにわたりその様相を呈していたことも事実ではなかろうか。
諸々制約はあろうが、「課題曲」であっても良い音楽/良い楽曲であることを願って已まない。
<Originally Issued on 2009.5.5. / Revised on 2012.6.3. / Further Revised on 2026.6.9.>


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