フェスティーヴォ
更新日:8 分前
Festivo V. ネリベル Vacalav Nelhybel (1919 - 1996)
-Introduction-
私は高校の3年間、実は吹奏楽から離れていた。 地元の進学校には吹奏楽部自体が存在しなかったからである。両親は中学3年間で吹奏楽にのめり込んだ私を見て、大学受験を成功させるために吹奏楽を続けさせない方針 (吹奏楽だけでなく恋愛もご法度、他の部活動も禁止、漫画までも禁止!)だったし、既にすっかり ”あきらめて” 高校に進んだ。
ーそして虎視眈々と、親の束縛と片田舎からの脱出を目指して大人しくしていたのである。
そんな高校生活だったが文化祭だけは3年続けて、出身中学吹奏楽部OBの先輩・後輩とともに開幕式冒頭の ”余興” として小編成の吹奏楽団を編成し演奏を行った。半月ほどの準備でそそくさと練習し本番なので、難しい曲は絶対無理である。 そんな状況下、先輩方が自然に全会一致で選んだ曲が「フェスティーヴォ」。「フェスティーヴォなら出来るよ~。カッコいいし~。」とのことだった。 ...まさに的を得ていたと思う。
■楽曲概括

冒頭、打楽器群の16分音符の活気溢れるリズムからして、思わず心躍らされる-。
「交響的断章」 「二つの交響的断章」 「トリティコ」 など、現代的な作風で個性を放つヴァーツラフ・ネリベルが1967年に作曲。急-緩-急ーコーダのオーソドックスでシンプルな序曲形式の作品だが、随所にネリベルらしさが窺える。
演奏難度の割にその音楽的効果は高く、前述のように賑やかに、そしてエネルギッシュに活躍する Percussion パートには特に注目である。
※尚、曲名表記としては 「フェスティーボ」 も根強い

この 「フェスティーヴォ」 を広く知らしめることになったのは、1969年全日本吹奏楽コンクールで準優勝を収めたヤマハ浜松の快演である。この演奏がCBSソニーが発売した 「全日本吹奏楽コンクール名演集 1964-1969」※ に収録され、有名となったのである。
この年の優勝は阪急百貨店であったが、ヤマハ浜松は翌年の金・銀・銅表彰制度移行後、全国大会金賞を連続受賞。
その後は意欲的な邦人作品への取組みでも知られるアマチュアのトップバンドとなった。
「フェスティーヴォ」 の快演をきっかけに、ヤマハ浜松はネリベルに 「ヤマハ・コンチェルト」 を委嘱。この曲を翌1970年の全日本吹奏楽コンクールで演奏して、見事金賞を射止めたエピソードも有名である。
※このLPは全日本吹奏楽コンクールが最も熱く燃えていた時代の名演を集めた貴重なもの。中でも福岡電波高 校の 「アッピア街道の松」 や阪急百貨店の 「軽業師の踊り」 などは、永らくこのLPでしか聴くことのできない 録音だった。時代を超えて、感嘆させられる伝説の名演揃いなのである。
尚、ヤマハ吹奏楽団は当時 ”ヤマハ浜松” の略称で親しまれていた。
■楽曲解説
「 “フェスティーヴォ” は序曲の形式で書かれた作品であり、曲中では木管楽器と金管楽器とが常に対比的に動いている。それは劇的な情景の中で、あたかも二つの敵対するものが絶えることなく対峙しているかのようである。」
ーフルスコア所載のネリベルのコメント

題名は ”祭り” を意味するものではあるが、特定の祭事・祭礼を描写するものではなく、”祭り”のもたらす精神的高揚を表現したものであろう。
既に述べたように全体は急-緩-急ーコーダの構成となっており、曲は ff の快速で活気に満ちた打楽器群の16分音符のビートにのって、全合奏による8分音符の打込みが作り出すリズム・パターンが提示されて開始される。 その頂点で Cymbal が鳴るとやや静まって、Trumpet に毅然とした最初の旋律が現われる。

シリアスに打楽器群のビートが刻まれ続ける中、これに Trombone がカノン風に加わり最後は一体となってこの楽句を終うと、今度は木管群によるハーモナイズされた重厚で息の長いフレーズへと移る。ここでの小気味良い打楽器のカウンターも印象的である。

打楽器の16分音符のビートが戻ってきて、それが弛みなく奏される中、木管群のこのフレーズに烈しい金管群の打ち込みが対峙的に加わっていよいよエキサイティングに高揚し、前奏部は終わる。 Molto Pesante で溜めた1小節に続いてはテンポを上げ、Allegro con fuoco の主部に突入。Snare Drum の鮮烈な8分音符に続いて Trumpet のリズミックな主題が吹き鳴らされ、これに Trombone + Baritone + Tuba によるダイナミックな舞曲風のフレーズが応答する。
非常に強い印象を残すユニークな楽句である。

ここでも打楽器群がエキサイティングな曲想を盛り立てるのだが、特に Tenor Drum の音色が高い効果を挙げている。
Trumpet の旋律が拡張しこのフレーズが繰り返されると、続いて木管群による流麗なフレーズが現れてコントラストを成し、これに金管群+打楽器群は打込みで応答して対峙する。


ネリベルのコメント通り、木管群と金管群は対比的に応答を続け、打楽器も賑やかなリズムで盛り立てて快活な音楽は徐々に高揚していく。
そしてついには金管群の鮮やかで重厚なフレーズによってクライマックスに達するのである。
こののち音楽は急激に遠ざかるように勢いと音量を潜めてゆき、Horn(muted) + Xylophone の8分音符のフレーズのディミヌエンドとともに中間部 Meno mosso へと入る。
Flute + Glocken による静謐で幻想的なこの部分は、まるで夏の夕べにひととき時が止まったかのような情景をイメージさせる。繰返し(=4回) 現れる Horn(muted) + Xylophone の8分音符のフレーズは、あたかも蜩(ヒグラシ)の鳴き声が響いているようにも思えるのである。
ここではそんな抒情を含ませた、緩やかな音楽を聴かせてほしい。

続いて Clarinet の音色が聴こえてくると一層ノスタルジックな雰囲気となる。 しかし緩やかなテンポはそのままに、ほどなく遠くから鐘の音が聴こえてきて、再び ”祭り” の活気が徐々に近づいてくるのである。

鐘の音に呼応したこのオスティナート風のベースラインがまた耳について離れない。やがてTuba も加わって厚みを増すサウンドと木管群の旋律の高揚、一体化して高まる鐘の音とベースラインとで、まさに ”近づいてくる” さまが描かれる。
そしてそこへ密やかに入ってくる ”決定的な” Snare Drum のリズムは洵に劇的である。

ー こんな曲を書くネリベルの天賦の才の凄さに感じ入ってしまう。
放射状に音量も音勢も拡大して、中低音の堂々たる音階風の楽句で中間部を終い、打楽器ソリによっていきなりエキサイティングな Allegro の再現部に入る。 この再現部では 「打楽器ソリ → 金管ユニゾン全音符のp~sff の強力なクレシェンド → 木管によるリズミックなメロディ」 のシークエンスの繰返しが鮮やかな演奏効果を挙げている。前半主部では Trumpet によって奏されたリズミックなメロディーが、今度は木管群で高らかに奏されるのが実に印象的なのである。 更に木管群メロディに金管群カウンターの打込みで高揚した後、金管群のレガートで息の長い旋律と木管群のリズミックな旋律の応酬となって全曲最大のクライマックスに向かう。
ここでも前半主部とは担当主題が木管群と金管群とで入れ替わって対峙応酬するのが心憎いし、ここで Tuba + Baritone のみに現れるベースラインの下降楽句が大変ドラマチックであって聴きどころである。

最後は、音楽がより幅広くなっていくさまを感じさせる充分な Rallentando からコーダのGrave に突入する。

強力な打楽器群のアンサンブルの上に木管・金管が一体となった重厚なサウンドによって拡大された旋律が轟然と奏されてゆき、エンディングとなる。
大音響で吹き切った最後は1拍半のG.P.を経て、B♭音8分音符が全合奏による山型アクセント付きの sffz で豪快に奏され全曲が締めくくられるのだが、この ”1拍半のG.P.” によって最後の一音が楽曲から遊離してしまうことのないよう、音楽的なセンスと心配りが必要となるであろう。
♪♪♪
「フェスティーヴォ」 には時代の流行を超え、聴くものの心を揺する魅力があると思う。 大編成でなくても演奏可能であり、難易度も決して高くないこの楽曲は、今の時代でもなお一層演奏されて良いはずである。
■推奨音源

高倉 正巳cond. ヤマハ吹奏楽団浜松 (Live)
既に言及した1969年全日本吹奏楽コンクールでの演奏だが、「フェスティーヴォ」の魅力を最大に発揮した演奏というとやはりこれになると思う。
(現在はCD化もされている。)
冒頭の Allegro moderato から♩=165 程度の超高速で始まり、主部 Allegro con fuoco では更に♩=168 程度へ速めるという、再現部を含め快速部分はとにかく突っ走っていくという特異な演奏であるが、その緊張感とエキサイティングさは堪えられない!
中間部 Meno mosso はしっとりとしたテンポであり抒情的に聴かせるその対比も憎いし、それが遠くから徐々に Allegro に戻っていく表現は心裡面も含め見事である。鮮やかなクレシェンドと音量・音色のコントラストが楽曲の持つ華々しさを示すさまは他の追随を許さない。 コーダの重厚なサウンドも素晴らしいし、誰もが悩むこの曲のエンディングの持って行き方も考え抜かれた最適解と感じる。
※尚、原盤LP・CDともに指揮者は原田元吉と表記されているが、この全国大会本番の指揮者は高倉正巳だったらしい

汐澤 安彦cond. 東京アンサンブル・アカデミー
もっとスピードが欲しいという面はあるが、快速部分の直線的な旋律をキチンと歌にするなど、音楽的なまとまりのある好演である。
ネリベルの作品の中では明快でわかりやすい”小品”だと思うが、本稿で述べてきた通り本作もまたネリベルならではのその才気が充満した逸品である。この楽曲の魅力を炸裂させたプロフェッショナルな楽団による ”理想の名演” をぜひ聴きたい。
【その他の所有音源】
井町 昭cond. 大阪府音楽団
木村 吉宏cond. 広島ウインド・オーケストラ
Alfred 社 サンプル音源(演奏者不詳)
ヴァーツラフ・ブラクネフcond. 東京佼成ウインドオーケストラ
-Epilogue-
この曲もまた、作曲者想定よりも速いテンポの演奏で人気曲となった楽曲である。 吹奏楽の特性上、(オーケストラやジャズアンサンブル、そして英国式ブラスバンドと比較しても) スピード感のある音色で奏するのに難しい面があり、ましてやアマチュアにおいてはそこに一層の困難があることから、吹奏楽では速めのテンポで演奏することが往々にしてあるのだと認識している。
しかし、である。テンポを速くしたらそれで良いというものではない。テンポを速くした方がその楽曲の魅力をより表現できる、という ”設計” に確信がなければならないのだ。 そしてそれを実現する”快速な”演奏は、間違いなく難度が上がる。そこに喰らいついて高みに達した演奏だけが人の心を捉え、感動させるのである。
<Originally Issued on 2008.3.12. / Revised on 2013.11.2. / Further Revised on 2026.10.10.>
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