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Too Little Time

hassey-ikka8
2 日前
読了時間: 7分

映画「グレン・ミラー物語」より  Music by Henry Mancini


-Introduction-

「グレン・ミラー物語」という映画はずいぶん昔からよく知っていたのに、この佳曲のことは全然認識していなかった。私がその魅力に気付いたのは、Youtube の動画を通じてであった。


その演奏をして ” Trumpet よりも高く、Sax よりも速い” と評された不世出のジャズ・トロンボーン奏者 = ビル・ワトラス ( Bill Watrous 1939 ー 2018 ) の名演に魅了されたのである。 1987年3月に収録された米国公共放送サービス(PBS)のテレビ特番 「Mancini & Friends」においてビル・ワトラスはヘンリー・マンシーニの率いる楽団に参画し演奏しているのだが、そこでの Too Little Time の演奏がまさに ”突き抜けた” Trombone Solo なのだ。

この世のものとは思えぬほど甘く美しい音色、また豊かなフレージングと実に品があり艶やかなビブラートも駆使して表現された歌心は、決して他の誰も真似できぬもの。

- まさに伝説的名演と呼ぶにふさわしい。

あまりの素晴らしさに指揮をしていたヘンリー・マンシーニも思わず ”Marvelous” の賛辞を連呼するほどであった。  ※この演奏のYoutube動画:https://youtu.be/PjNMeR9T7UU?si=9aR_FOWBNoDp0xbT


■Too Little Time と映画「グレンミラー物語」


映画 「グレン・ミラー物語」(1954年) は、監督アンソニー・マン・主演ジェームズ・スチュアートによるテクニカラーの音楽映画で、スウィングジャズの巨人の一人でありバンド・リーダーとしてまたトロンボーン奏者として高名なグレン・ミラーの生涯を描いている。

音楽家として新たなバンド・スタイルとサウンドを追い求め、幾多の苦悩と挫折を経て「ムーンライト・セレナーデ」をはじめとする多数のヒット作を生み出したグレン・ミラー。その成功と劇的な人生を描きつつも、本作品の実体はグレン・ミラーを支え、彼と慈しみあった妻ヘレンの愛の物語なのである。 「ムーンライト・セレナーデ」はもちろん、「アディオス」「真珠の首飾り」「イン・ザ・ムード」「ペンシルバニア6-5000」「タキシード・ジャンクション」「セントルイスブルース・マーチ」「アメリカン・パトロール」「チャタヌーガ・チュー・チュー」「茶色の小瓶」とグレン・ミラーのヒットナンバーの演奏シーンをふんだんに盛り込み、ルイ・アームストロングやジーン・クルーパらトップミュージシャンの出演/演奏も仰いだことで、音楽映画として大変質の高いものとなっている。

そんな「グレン・ミラー物語」において、映画音楽の巨匠・ヘンリー・マンシーニ (Henry Mancini 1924-1994 )が作曲提供したこの Too Little Time は”劇中挿入曲”の位置づけである。

とはいえこの曲はグレン・ミラーとヘレンのラブシーンで必ず聴こえてくるものであり、前述の通りこの映画がグレン・ミラーと妻ヘレンの愛の物語であることからすれば、極めて重要な役割を果たす楽曲なのだと気づいていただけるだろう。


■グレン・ミラーとその楽団について

1929年の世界恐慌を克服し景気回復の波に乗ったアメリカで1930年代半ばから、かのベニー・グッドマンが口火を切って勃興した ”スウィング時代”- グレン・ミラー ( Alton Glenn Miller 1904-1944 )とその楽団は、それを代表する存在である。

「何百万のアメリカ人にとって”スウィング”とはグレン・ミラー楽団の持つ魔法のサウンドを意味する言葉だった」

とも評される。


有能な Trombone 奏者だった1920年代にベン・ポラック楽団など幾つもの著名な楽団で活躍したのち1930年代の初めにニューヨークへ出る。さらに Trombone 奏者として演奏活動を続ける傍ら、ジョセフ・シリンガー※ に就いて作編曲の研鑽を積んだ。

 ※ジョセフ・シリンガー

  スクリャービンの弟子であったロシア系ユダヤ人。バークリー音楽院の前身となった”シリンガー・ハウス”の 創始者であり、後にジャズ界を席捲する ”バークリー・メソッド” は、彼の考案した ”シリンガー・システム” を元にしている。

  ベニー・グッドマンやジョージ・ガーシュウィンもシリンガーに教えを受けており、また電子楽器テルミン の開発に関係し、そのレパートリー提供を手掛けたことでも知られる。


そしてグレン・ミラーは1937年に自らの楽団を結成、従来のダンス・バンドを拡充した編成のアンサンブルとクラリネット・リードによってスウィング時代のニューサウンドすなわち”ミラー・サウンド”を創造した。それが大流行し、1939年から1941年にかけて「ムーンライト・セレナーデ」「真珠の首飾り」「イン・ザ・ムード」「茶色の小瓶」などのレコードが次々とヒットして全盛期を迎えたのである。

しかし第二次世界大戦の勃発を受け、グレン・ミラーは1942年に米国陸軍航空軍に志願入隊している (最終階級:少佐)。以降は楽団(軍籍にあるミュージシャンで結成したアーミー・エアフォース・バンド)を率いて精力的に国内外で慰問演奏を続けたのだが、大戦末期の1944年12月にイギリスからフランスへ慰問演奏のため特別機で飛び立ち、そのまま不帰の人となってしまった。40才での夭折であった。

しかし彼の死後もグレン・ミラー楽団は残された楽団員が存続し、現在でも彼の名曲は演奏され続けている。またビッグバンドや吹奏楽のポップス・ステージでも重要なレパートリーであり続けている。

まさに彼の音楽は不滅のものとなったのである。


【参考・出典】

「ジャズの歴史」

フランク・ティロー 著 中嶋 恒雄 訳 (音楽之友社)

「ジャズの歴史物語]

油井正一 著 (角川ソフィア文庫)






■推奨音源

Our Man in Hollywood / Dear Heart & Other Songs about Love


ヘンリー・マンシーニのヒットアルバム(LP)2枚をまとめたCD。Too Little Time は ” Our Man in Hollywood ”の方に収録されていたもの。

1962年の録音で、こちらはディック・ナッシュ ( Dick Nash 1928ー ) のソロによる収録。こちらのソロも大変素晴らしい。 全編、マンシーニ・オーケストラならではのゴージャスなサウンドが堪能できるアルバム。



尚、グレン・ミラー楽団の音源はそれこそ無数にあるが、以下を挙げておく。

The Essential GLENN MILLER 1939~1942年のグレン・ミラー自身が率いた時代のグレン・ミラー楽団の演奏と、グレン・ミラーが米軍内に結成し、精力的に慰問演奏を展開したグレン・ミラー指揮のアーミー・エアフォース・バンドの録音を収録したアルバム。

まさに ”オリジナル” なグレン・ミラーの音楽が味わえる。






グレン・ミラー・オーケストラ ベストセレクション 3枚組のCDで、グレン・ミラーの音楽を新しいクリアな録音でアップデートしたアルバム。

文字通り、グレン・ミラー楽団のレパートリーを ”網羅” しており、演奏も素晴らしい。







-Epilogue-

この魅力的なバラードの最高音は HiC。

テクニック的な問題もなく、私ですら自分で演奏しようとしても問題なく ”手の届く” 楽曲である。


…しかし、である。 頭の中ではビル・ワトラスに成り切った気分でいても、あんな風になんて到底吹けなーい !! どうしたらあんなに魅力のある音楽として吹けるようになるんだろう...

もう憧れしかない。


超絶ハイトーンを縦横無尽に操り、如何なる高速パッセージも軽々と吹き、それらを駆使して飛び抜けたセンスのアドリブを次々と繰り出してくるビル・ワトラスの Trombone は、もはやTrombone という枠を遥か高く跳び越えた唯一無二の存在であり、とにかくもの凄い!

でもこんなー 魅力的ではあるが何の変哲もないメロディを吹いても、ビル・ワトラスは他の追随を許さない圧倒的な演奏を聴かせる。Too Little Time というシンプルな曲をこれほど素敵な演奏で聴かせるなんて...彼の超絶アドリブを誰も真似できないのと同じように、これもビル・ワトラスにしかできないことなのだ。



それでも、くそアマチュアでヘタクソの私でも、「いつかビル・ワトラスみたいに吹きたい」と夢は見る。今日も Trombone の実力を上げるための地道な練習をし、そしてこの旋律を吹いてみるのだ。

ああー、艶やかに広がっていくハイトーンをあんな美しい音で吹きのばして聴かせられるようになるだろうか。豊かなニュアンスを含んだ絶妙な抑揚がつけられるだろうか。大きなフレーズで音楽を途切れさせることなく吹けるだろうか…。 それは近づこうとすることすら遥かな道のりだが、私の”夢”の一つとして叶える努力はこれからもずっと続ける覚悟だ。

そしてヘンリー・マンシーニ楽団の Too Little Time を再現した、Tromboneソロフィーチャーによる原調でハイエンドな吹奏楽アレンジの登場を切望する。

ヘンリー・マンシーニ楽団のオーケストレーションによるサウンドに迫るなら、ビッグバンドより寧ろ吹奏楽の方が近いはずなのだから。


                                   <Issued on 2026.11.1.>

 
 
 

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